第八十二話 聖騎士団
「ダメだよ、ソフィア様」
としゅっと姿を現したのはエリオットだった。
ソフィアはエリオットを見た。
銀髪、白い肌、アイスグレーの瞳、華奢な身体、ふわふわのドレス、エナメルの赤い靴、見るからに儚そうな伯爵令嬢のソフィアだが、
「は? お前ら兄弟、マジうざい!」
と鼻息荒く言った。
「まあ、クズを探しに行くのは僕たちもお供するけどさ、今はまだこの国でやる事があるんだ」
「そんなん知るかつうの。あんたら魔族、今では結構な数がいるんだろ? そっちでやればいいじゃん」
「ダメだよ。みんな、ソフィア様の濃厚な魔力欲しさに集まってるんだから。それにセブンス・ドラクールの話もある」
「セブンス? ああ、ナイト・デ・オルボンか。何? あーいいや。聞かない! あたしは何も知らない! 聞きたくない! そっちでやって!」
両耳を手で塞いでわーわーと言うソフィアを見て、ローガンが笑った。
「セブンスの事は我々がやりますよ。エリオット、ソフィア様の手を煩わせる事じゃないから余計な事を言うな」
エリオットは肩をすくめたが、意味ありげにソフィアを見た。
「何よ、余計に気になるじゃん! エリオット、何?」
「簡単に言えば、昔、ドラクール一族から人間が盗んだ宝物を取り返したいって話、それに手を貸して欲しいって」
とエリオットが言った。
ローガンは苦い顔をしている。
「宝物?」
「そう、数百年前、魔王様が勇者に敗れ、闇の魔力がほぼ消滅、我らも身動き出来ず、魔物や魔族は消滅の危機に瀕した。人間どもはやりたい放題で魔王城や魔族の塒から宝物を根こそぎ奪略しやがった。ドラクール一族も同じような目に遭い滅ぼされた。わずかながらに逃げ切った者達で細々と生き長らえ、ようやくここ数年で仲間を増やしたところさ。人間に復讐出来るほどではないけどね、ただドラクール一族の至宝を取り戻したいって話さ」
とエリオットが説明した。
「ドラクールの宝って何なの?」
「ドラクール一族の始祖、ファースト・ドラクールの残した宝珠さ」
聞いておきながら興味のなさそうな声でソフィアは「ふーん」とだけ言った。
「盗み返すだけなんでしょ? そんなの簡単じゃない?」
「それがそうもいかないんだ。ドラクール達だけでもここ数年、頑張ってたみたいだけど、どうにもうまく行かなくてこっちに持ちかけてきたってわけ」
「あっそ、で、どこにあるの? ぱっと入って持ってくりゃいいじゃん。そんな難しい場所?」
「そうだよ。国の宝物庫の中だからね」
とエリオットが笑ってウインクをした。
「国の宝物庫? へえ、魔法でぱっと侵入できないの? ローガンとか呼んだらすぐどっからでもシュッと現れるじゃん」
ソフィアはローガンを見た。
「まあ、そこら辺の城や屋敷、ダンジョンくらいならね。でも国宝を置いてある宝物庫だ。魔法で侵入ガードを何重にも設置してあるし、騎士団の中でも選りすぐりの魔法剣士が何百人と昼夜問わず守ってる。いくら魔力が回復したとはいえ、我々でも油断は出来ませんね。中には宝物庫を守護する専門の聖女達もいますからね」
「そうなの?」
「それに宝物庫専用の魔法剣士はなかなかの曲者で猛者揃い。国宝を守る為なら向かう者を全て敵とみなし殲滅しますからね。ここ数年、城の宝物庫には野ねずみ一匹近寄ってませんよ」
「ふーん、優秀なのね」
「それが、中には国王の名の元に威張って狼藉を働く輩もいる。全ての騎士が騎士道を守ってるわけじゃないんだよね」
とエリオットが言った。
「へえ」
「聖騎士団の中でも階級が上位の魔法剣士だからね、出身はほとんど上位の貴族の子息だ。魔法学院の卒業した生徒が毎年希望するが、聖騎士団への試験が厳しくなかなか受からないらしい。入れば特権階級だからね。宝物庫警備以外に王族の騎士もそこから輩出されるから。さっきのカルロス皇太子なんかはもの凄い数の聖騎士を侍らせてる」
「ああ、さっきの奴」
と言ってソフィアは自分の頬を押さえた。
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