第八十一話 分岐点
カルロスは不愉快そうに執務室を出た。
彼の取り巻きが慌てて後を追う。
カルロスはローガンの謝罪を受け入れたわけでもなかった。
皇太子であり、次期国王であるカルロスが伯爵家を一つ潰した所で誰に何も言わせない。
現国王への言い訳も適当な理由を述べて誤魔化す事も出来た。
だが事を収めたのはローガンに対しての貸しだった。
美しいローガンが自分に膝をつく姿はカルロスを満足させた。
どんなに美しかろうが、権力には敵わないのだ。
金髪碧眼、白い肌、全てが整った顔立ち、そして素晴らしい魔力量、それはカルロスがどんなに憧れても手に入らないものだった。
国王家には魔力が有する者が生まれない。例え魔力のある娘が嫁しても、生まれる子供に魔力が宿る事がなかった。
国王家という最上級の貴族に生まれながら、どうしても手に入らないのが魔力だった。
だから王家に生まれた者は最上級の魔術師を抱える。
その争奪戦は酷い物で、金や宝石を積んで素晴らしい魔術師を側に侍らすのだった。
これはよい機会だとカルロスは思った。
あの美しいローガンを自分抱えにすればいいのだ。
魔術師は主人には絶対服従、その美しい青年を側に置けば、皆がうらやましがる。
そう思うとヘンデル家を取りつぶすよりも面白い、皇太子はほくそ笑んだ。
ソフィアは何も言わなかった。
皇太子だろうが聖女候補だろうが火だるまにすればそれで気がすんだものの、毎回こうやってローガンやエリオットの邪魔が入る。
賢者ばりの魔法を使うな、その実力が知られれば国に縛り付けられる事になるぞ。
毎回そうやってソフィアの気分を削ぐ。
魔法の実力が知られてこの国で生き辛いなら他の国へ行けばいいし、それが罪になるならみんな消してしまえばいいとソフィアは思っていた。
自分へ討伐隊が出てそれらに追い詰められたとしてもソフィアは戦うし、もしそこで力尽き泥にまみれて死んでもそれでよかった。
皆が皇太子に付いて退出し後、残ったソフィアはふてくされたように横を向いた。
「ソフィア様、何度も言いますが……」
ソフィアは言いかけたローガンの前に手の平をぱっと出して黙らせた。
「うるせえ、聞き飽きたよ。全属性の魔法を使える事を知られちゃならないってんだろう? 知られたら国に縛り付けられる? 知られなくてもあんたにこうやって行動を制限されて縛られてるじゃない。はっきり言うけどさ、もうあたしには何もないんだ。ソフィアの復讐は果たしてやったよ? もういいだろ? 伯爵家に残る理由もない、ここを出て行ってもいいんだ」
「ダメだ!」
とローガンが叫んで、ソフィアの手首を強く掴んだ。
「ダメだ、あなたをどこにも行かせない」
「何を企んでるの?」
「何も……」
「あんた達は人間の姿を手に入れて、身分も屋敷もある、食い物も寝床にも困らない。そのまま人間ごっこを続ければいい。あたしはさぁ……ダメなんだ。このソフィアになる前からさ、こういう性分でさ、クズな人間を傷つけないでいられないんだよ。だから次のクズを探しに行くよ」
と言ってソフィアは笑った。
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