第七十九話 聖女候補達
レミリア・ハウエルは生徒会執務室で茶を飲んでいた。
学院で魔法を極めようとする者が合同キャンプレッスンへ行っている間、聖女候補達は集められて連日、勉強会が行われた。聖女候補は一同に集められ、互いに技術を語り合う交流をしたが、レミリアは完全にレイラだけは無視していた。
この学院の中ではレミリアに従わない者はおらず、教師陣でさえハウエル公爵家に媚びるしかなかった。それほど四大公爵家は力を持っており、だからこそレミリアは皇太子妃候補でもあった。
皇太子妃候補に選ばれたのはまだ彼女が5歳でその時から教育が始まる。
皇太子妃はいずれは王妃にもなり、その為の教育は凄まじく厳しいものだった。
レミリアは素晴らしい令嬢で勉強に励み、厳しい指導にも絶えた。
それだけの根性と努力する姿勢は素晴らしいものだった。
いずれは聖女になる為の資質も十分で、魔力もそれを使いこなす勉学も真剣に取り組んだ。
レミリア自身もその他の誰もが彼女が聖女に選ばれ、やがて王妃となると信じていた。
妃教育を終えた今では、煩わしい生徒総会長はケイトにさせて自分は楽に学園で暮らしていた。学院ではレミリアが女王であとは皆が下僕、妹のエレナでさえレミリアを恐れていた。
聖女候補、皇太子妃候補であり、四大公爵家の長女であるレミリアには恐れる者いなかった。
唯一の友であるケイトはすでに聖女候補を辞していた。
しばらく学院へも顔を出さず、レミリアへのご機嫌伺いもしない。
それでハウエル家と疎遠になって困るのは地位の低い伯爵令嬢であるケイトなので、レミリアは気にも留めなかった。
すぐにビクビクと顔色をうかがいながらやってくるのに違いないのだから。
ただひとつの懸念はレイラ。
遠方のへんぴな村で濃厚な魔力が検知され、探し出された貧しい痩せこけた少女はレミリア以上の資質を持っていた。
何も学ばず、何も教えられていない少女はすでにレミリア以上の聖魔法を使いこなしていた。村人や動物を癒やし、大地に恵みを与える。
自分はろくでなしの義父に虐待されながらも決して弱らず、貧しい村を守っていた。
やがて聖女候補として魔法学院に召されるが、村育ちの素朴な少女は同級生、上級生、教師からの身分差による虐めには耐えかねた。
何もかも投げ出して村へ帰ったが、学院は彼女が学院を辞めるのを許さなかった。
聖女候補としての支度金も渡してあるし、何より惜しいその才能。何度も説得に来て、やがてはそれが脅迫に変わりそうな時、レイラを引き戻したのはソフィアだった。
レイラの憂いを払い、さらに復帰後は彼女に寄り添い、今まで虐めていた同級生達を一睨みで黙らせる。
レイラは今、楽しそうに学院で生活をしていた。
聖女候補達の勉強会でも堂々とし、素晴らしい聖魔法を披露し教授達を驚かせた。
始終笑顔をたたえていたレミリアだが腸が煮えくりかえるほどレイラの事が疎ましかった。
レイラを排除するように命じたエレナもキャンプより身体の具合が悪いと部屋に引きこもっていた。
「どいつもこいつも役に立たないったら」
レミリアはいらいらとカップを置いて、
「誰か初等部のソフィア・ヘンデルとレイラを呼んできなさい」
と命じた。
おずおずと執務室へ入ってくるレイラと、その後ろから物珍しそうにきょろきょろとしながらソフィアが入ってきた。
「お呼びでしょうか、レミリア様」
とレイラが言い、丁寧にお辞儀をした。
ソフィアは薄ら笑いのような顔でレミリアを見た。
彼女らが相対するのは初めてで、レミリアは噂に聞いていた少が自分の想像とは違ったことを感じた。もっと弱々しく、もっと貧弱で、伯爵家でも食うや食わずの生活と聞いていたからだ。
「レイラ、あなたに先日忠告してさしあげたわね? それについてどう考えているの?」
レイラはしばらく俯いていたが。
「私は聖女候補を辞退するつもりはありません……」
と小さな声で言った。
「何ですって? あれだけ私が教えて差し上げたのに?」
レミリアは眉をしかめ、その周囲にいた取り巻き達がひそひそと、しかしレイラに聞こえるような声で「身の程知らず」「田舎者が」「レミリア様に反抗するなんて」「愚かな」
と言い出した。レイラは下唇を噛んで、スカートの裾をぎゅっと掴んで下を向いた。
「確かにあなたは平民にしては魔力も多いし、力があるわ。治癒の魔法も効力が強いと聞くわ。素晴らしいわ。でもあなたの力はそれこそあなたが育った田舎の村で発揮すればいいと思うの。聖女様というのは国王や貴族の前で力を披露しなければならないのよ? 衆人環視の元で聖魔法を披露出来ますの? 国全体を覆うような聖なる祈りをきちんと勤め上げる事が出来ますの? 平民には生まれ持った品位がないわ。お分かり? あなたみたいな平民が聖女になるという事は我が国に汚点をつける他ないの!」
「で、でも、過去には平民から生まれた聖女様もいらっしゃるじゃないですか」
レイラは小声で言い返した。
それにも取り巻きが「レミリア様に口答えするなんて」「ほんと田舎者は恥知らずで」と声が聞こえてきた。
レイラは真っ赤になってまた俯いた。
「本当に分からない人ね!」
レミリアが手に持っていた扇をパタン!と机に置いた。
レイラはビクッと身体を震わせた。
「ソフィア・ヘンデルだったかしら? あなた、お友達を説得なさい」
レミリアは矛先をソフィアに向けた。
「ねえ、ソフィア、聖女の条件をご存じ?」
ソフィアはただ微笑んでいる。
「魔力はもちろん、光の魔法を使える事ね。でも一番大事なのは乙女である事」
レミリアはソフィアを見てふふふと笑った。
「お前の友達をお前みたいな汚れた身体にしたくないでしょ?」
以前、虐められていたソフィアは性奴隷としても弄ばれていた。
幼い幼女に悪戯するのを好む男はいる。
まだ8歳の幼いソフィアを裸にして楽しむのは男子生徒ではなく教師にいた。
「あら、ご心配には及びません。私、完全治癒魔法で身体中回復してますから」
とソフィアは言った。
ゲスな教師に貫かれたソフィアの身体はすべて治癒してあった。
ソフィアの聖魔法は千切れた腕や足でさえ繋ぐし、無くした手足さえ生えてくるほどだった。
「回復したって、あなたが乙女でない事は周知の事実。あなたが汚れた娘だって事は変わらないわ。レイラも同じ目に遭わせたくないでしょ?」
「周知の事実ねぇ……」
とソフィアは言って薄く笑った。
「何なの!」
「だったら誰も知らなかった事にすればいいじゃん。お前らみんなコロシたらいいんだろ?」
ソフィアの手にぼうっと炎が現れた。
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