第四十三話 イベント

 ソフィアは机に向かっていた。

 教壇では教師が魔法学について熱弁をふるっている。

 空間に現れてた魔法陣を読み解いて、それを事細かく説明しているが、ソフィアはそれをぼんやりと聞いているだけだ。

 ソフィアの身体、蓄えられた魔力、その素質は素晴らしい物だ。聖魔法、攻撃魔法、付与魔法、さらに闇魔法すら使えた。逆にソフィアの中の美弥はこれほどの才能をべそべそ泣くだけで殺されてしまった元祖ソフィアの方が不思議だった。

「何でも出来るはずなのに」

 伯爵家を追い出されたところで、生きていく術は山盛りあったはずだ。

 学院で虐められてせっかくの魔力発現を自ら遅らせていたとはもったいない話だ。

「いつか誰かが改心して救ってくれるとでも思ってたのかねぇ。ばっかじゃねえの?」

 とソフィアは独りごちた。


「さて、来週はいよいよ剣王学院との合同レッスンです。キャンプですから、アイテムや魔力回復薬等、各自不備のないように用意して挑んでください。なお、このレッスンに参加予定のない者は自宅学習となり、課題が出ますから」

 と教師が言った。

「先生、剣王学院との合同レッスンて、パーティを組むんですよね?」

 と生徒の一人が質問した。

「そうです。我が学院では皆さんが卒業するまでに魔法学の全てを学びます。卒業後、みなさんが、魔法庁へ入るか、国王軍魔術騎士を目指すか、また後継への教職を取るのか、世へ出て魔術師として民を守る仕事もある。勇者とともに冒険者になり魔族の脅威から民を守る等、様々な道があります。ですが全てが魔法で解決しない場合もある。どんなに魔法の精通していても、力が、知恵が必要な場合も多々あります。剣王学院の生徒は魔法は使えないけれど、剣や拳に秀でている。魔法学院は魔法に秀でているけれども、力がない。ですがその二つを合わせれば大きな力になる。そうして二百年前に魔王を倒して人間は平和を手に入れたのです。ですから剣王学院とは切磋琢磨する仲間なのです。この先の重要なパートナーと出会えるかもしれない、重大なレッスンです。皆さん、気を引き締めてかかりましょう」 

 教師の叱咤激励に生徒達はザワザワとなり、席の近い者同士でコソコソと話を始めた。

 中には卒業後は爵位を継いで領地経営などの職に進む者や、婚姻が決まっている者など、進路によって参加は自由だった。

 初等、中等、高等科、各三クラス、それぞれ三十人、全学院生徒で三百名弱であるが、卒業後、魔法を生業にする者は約半数、女子にいたってはさらにその半数に満たなかった。


 近くの席のローラがソフィアの方へ振り返って、

「キャンプレッスン……行くの?」

 とおずおずと聞いた。

「国によって立入禁止になってる魔獣区に行くんだっけ? 面白そうだから行くよ。魔獣討伐なんて面白そうじゃん。魔物よりもたちのわりぃ人間もいるけどね。あんたは? 行かないの? ああ、令嬢だから卒業後は結婚とかすんだっけ?」

 ソフィアは気さくな風に答えた。

「うちは……多分、無理」

「何が?」

「え、いえ、何でもない」

 とローラは暗く答えた。

「ふーん」

 授業が終わったのでソフィアは立ち上がりレイラと一緒に教室を出た。

 ナタリーの訃報より、二人への虐めは鳴りをひそめていた。

 ナタリーの言いつけでソフィアを虐めていたローラがすっかり大人しくなってしまい、先頭立つ者がいなくなってしまった。

 誰かがいじめを始めれば面白がって参加するが、自分が中心に悪役になるのは嫌だという心理が働いている。


「レイラ、キャンプ参加するの?」

 ソフィアの問いに、

「いいえ、聖女候補は不参加とされています。候補達は集まって選抜試験の為の勉強会がありますから」

 と答えた。

「そう、まあ、聖女候補がパーティに入ったらずるすぎるってか、最強じゃんね」

 とソフィアが笑った。

「ソフィア様は参加ですか?」

「ええ」

「ではお気をつけて。魔獣区にて強い魔の力が働いています」

「そうなの?」

「はい……まだ、みなさんが感じるほどではないでしょう。けれど……」

「そっか、レイラは光の娘だもんね。強く影響を受けるんだ?」

「はい」

「そっか、ありがと頑張るわ」

 とソフィアは笑って答えた。

 

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