第二十九話 右目をバイ菌のついた刃物で刺される
ソフィアによって回復された三人の娘は目を合わせて肯き合って、部屋を出て行った。
娘達が自分の手で自分を陵辱した男を殺しても殺せなくても、ソフィアにはどうでもよかった。生まれながらに奴隷であった娘達は逃げるというだけでも一大事だし、ゲムルから逃げ出したところで文字も書けず読めず、肉体労働、もしくはそのか弱い肌を蹂躙されて生きるしか術を知らない。また同じような奴隷商人に捕まって、どこかへ売られるのが関の山だという事をソフィアは知っていた。
ソフィアはゆっくりと部屋を出て歩いた。
奴隷娘達に少しでも多くの復讐も時間を与えてやりたいからだ。
だがソフィアがコツコツとゆっくり階段を降りたところで状況は変わっていなかった。
氷り漬けにされた醜い領主はそのおおきな口で奴隷娘達を罵り、そして奴隷娘達は根付いた奴隷根性から逃れられず、今ではこちらの立場が上なのも関わらず、ぶるぶると震えて領主の罵倒を聞いているだけだった。
「クソが! 奴隷の分際でこのわしに! 貴様らのような生まれながらの奴隷は這いつくばって生きてりゃいいんだ! 知能も低い! 労働力もない! ゴミみたいに生まれた貴様らには管理する人間が必要なんだ! 分かったら、さっさとこの魔法を解くようにあの娘に言え! このクズ奴隷どもが!」
ソフィアがパチンと指を鳴らし、一人の娘の手に錆びたナイフが現れた。
「これ……!」
「その刃こぼれしてる錆びたナイフで、そのガマガエル野郎の首を掻き切ってしまえばいいのよ? 切れ味は悪いし、下手したらほんの少しの傷を負わせるしか出来ないわ。でもその錆びたナイフ、不浄な破棄物投棄場から拾ってきたもんだから、恐ろしい菌とかついてて、それに感染したら身体が腐って落ちるような目に遭うかもしれないわね」
とソフィアが言うのと同時に領主が「ひぃいいい~」と叫んだ。
奴隷娘達はそれでも動こうとせずに持たされたナイフを眺めるだけ、ぶるぶると震えるだけだった。
ソフィアははーっとため息をつき、
「もういいわ、お前達、どこへでも好きな所へお行き。ここであった事は忘れてね」
と言った。
ソフィアは奴隷娘の手からナイフを取り上げ、床をだんっと蹴った。
「さあ!」
奴隷娘達はびくっとなり、顔を見合わせてからこそこそと広間から外へ出て行った。
ソフィアは氷着けの領主やその配下を見回した。
奴隷娘達が復讐を成し遂げることは出来なかった事についてはがっかりしたというのがソフィアの本心だが、暴力や暴言により虐げられてきた人間は心が萎縮し、反抗する気力を奪われてしまう、という事を彼女は知っていた。
奴隷に売られるような幼い子供達なら尚更、例えその手に刃物を与えてもらっても、それで復讐を遂げるのは簡単ではない。
「貴様、こ、この私にこんな事をしてただですむとは思うなよ!」
と領主が喚いた。
「あらぁ、ご自分が死んだ後のことなんて、心配しなくてもよくてよ?」
とソフィアが不敵に笑い、そのゾッとする笑顔に領主らはますます青い顔を引きつらせた。
「ま、待て、金ならある……だから……」
「金? 金なんかいりませんわ。クズの息の根を止めるより楽しい事なんかありませんの」
ソフィアは奴隷娘から取り上げた錆びたナイフを領主の右目に突き立てた。
「ギャーーーーーーーー」
目玉を潰され、体液と血を流した領主が叫んだが、両手はすでに氷に覆われ、その目を塞ぐ事もナイフを取り去る事も出来なかった。
ソフィアは領主に背中を向けた。
カツンカツンと足音を響かせながら、広間を出て、そして屋敷の玄関から出て行った。
振り返り屋敷を一望し、広間の動けない領主達の部屋を意識し、手をかざす。
ソフィアが手の平を握ると、屋敷の中のその部分だけがぐしゃっと潰れた。
彼らは悲鳴を上げる間もなく、身体中の骨も脳みそも心臓も目玉もソフィアの手の平で圧縮されて死んだ。
「ソフィア様、お迎えにあがりました」
と門扉にメアリが控えていた。
「そう、レイラの養父とやらはどうなった?」
「それが……レイラ様のご要望で逃がしてやりました」
「マジか……まあ、聖女だからそうなるか。あんなクズ野郎でも」
と言ってソフィアが笑った。
「じゃあ、クズを仕留めに行こうか」
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