第二十七話 領主

 腕組みをして、そう言い放つソフィアを母親と弟はポカンと眺めている。

 男は胸元まで氷が登ってきており、その冷たさで真っ青な顔で震えているが、

「おい! サーヤ! 俺が必要だってその小娘に言え! お、俺がいなくちゃ、ガキに食わせるもんがないんだぞ!」

 と叫んだ。

「うるせえっつてんだろ? マイア、黙らせるんだよ」

 とソフィアが言った。

「あいよ」

 とメイドのマイアが男の横っ面を殴った。

「ぐええッ」

 と殴られた男は怯えた間抜けな顔でマイアとソフィアを見た。

 

「レイラは聖女候補だよ? 知ってる? 聖女。癒やしの力と導きで全ての民を幸せにとか言ってんの。その為にさ、聖女に選ばれたら、国が総力を挙げてバックアップすんのよ。ね? すげえ金、税金をじゃんじゃんつぎ込んでくれんのさ。だからさ、レイラはこの先、金に困るなんてことないの」

ソフィアはケッケッケと笑った。

「むしろ、あんたみたいなクズが義理でも父親だなんて聖女のイメージにマイナスにしかならないっつうの。だからあたしはさー、こんなクズ、氷り漬けにして森にでも放置しときゃ、魔物が跡形なく食ってくれるからいいと思うけどね」

 と母親の方へ振り返った。

「ま、魔物……」

 母親は恐ろしいという表情でソフィアを見上げた。

「お、俺をこんな目にあわせや、やがって……娘がどうなってもい、いいのか!」

 ソフィアが男にかけた氷の魔法は首元まで上がってきていたが、ソフィアがパチンと指を鳴らすと勢いが止まった。

 母親がふらふらと立ち上がり、

「レイラに何を……」

 と言った。

「レイラはまだガキだが、そんなのを好きな男もいるんだぞ!」

 と男がにやりと笑った。


「レイラは今、領主のとこだったな? そいつも噛んでんのか? とことん腐ってんな」

 とソフィアが言った。

「マイア!」

「はい」」

「お前、ここでこの男を見張ってな。あたしはメアリと領主んとこ行ってくる」

「えー、マイアもそっちが……」

 ソフィアにぎろっと睨まれ、マイアは口をつぐんだ。

「この男が妙な動きをしたら、喰っちまってもいいよ」

「マジすか! 了解っす」

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