第二十六話 クソ

「こんな目に遭わされるくらいなら、こんな父親、いない方がましじゃないの?」

 と言いながらソフィアが小屋の中に入って行った。

「ああ? 誰だ? てめえ」

 と男が振り返った。


「私はソフィア・ヘンデル。レイラのご学友ってやつだけど? 光の聖女の父親にしちゃ、下品な男ね」

 とソフィアは男を見て、そして母親と弟を見下ろした。

「父親なんかじゃない! 父ちゃんは……俺達の父ちゃんは……死んだ父ちゃんだけだ!」

 と弟が叫んだ。

「このクソガキ!」と男が言うのと、母親がレオンを庇うように前に出たのが同時で、母親は男の木靴で顔面を蹴られ、血飛沫が飛んだ。

「母ちゃん!」


「ソフィア様、この男、悪い人間、喰ってもいいと判断した。喰ってもいいっすか」

 とマイアが言い、ソフィアはくすっと笑った。

「駄目よ。こんなクソでも、レイラやお母様、弟さんには必要かもしれないじゃない? お母様はこうやって殴られて搾取されるのがお好きなのかもしれないじゃない? 簡単に他所様の家の事に口出したら駄目よ」

 と言ってソフィアは母親を見た。レオンを抱き締め、ぶるぶると震えている。

「ねえ、お母様、察するところ、レイラと弟さんのお父様はお亡くなりになり、女手一つで子供達を育ててきたはいいが、そのお体の弱さから仕事も続かないんでしょう? 言い寄ってきた男の世話になったはいいがそれの正体がクズだった、って所でしょうか?」

「あの……あなたは……」


「てめえ! 言いたい放題いいやがって! この小娘が!」

 と男はいきり立ったが、すでにソフィアの手の平から放出された、氷の粒が男を足下から凍らせて、その場からは動けなくなっていた。

「うるせえよ。この二人があんたみたいなクソでも必要なら、開放してやんよ」

 とソフィアは男を睨んだ。

「でも、この二人に必要ないと判断されたら、両足持って真っ二つに引き裂くからな」

「て、てめえ!」

 と男は拳を握っていきり立つが、足下から氷がパクパキと男の身体を這い上ってくる。

「分かったら黙ってな」

 ソフィアはそう言い、また母親を見下ろした。


「で? どうすんの? あたしの知り合いにもあんたみたいな幸薄そうな女がいてさ。こういうカス野郎に殴られ、搾取され、そんで別れなきゃとか言いながら、ずるずるくっついてんの。子供の為~とか言い訳してさ。子供にしたら迷惑だっつうの。そんな情けない姿をガキに見せて、ガキが立派な大人になるとでも思ってんの? このままじゃ、弟も今は母ちゃん母ちゃん、つってるけど、あと数年で女子供を殴るクズになるよ? それがこの子の日常なんだからね。それよか、あんたが血を吐きながらでも真っ当に働いてさっさとくたばる方がガキにはよっぽど教訓になると思うけどね」


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