第二十五話 レイラの義父

 馬車でも五日かかる距離だが、辺りが明るくなるころにはサルマ村に到着した。

 メアリは元のメイド姿に戻り、マイアとソフィアの背後を護りながらついて歩く。

 ソフィアは村の入り口から中に入り、早朝の作業をしている第一村人に声をかけた。

「おじさん、レイラさんの家をご存じ?」

「あ? ああ、レイラの家はこの中道をずっとまっすぐ行った村の端っこの一番奥の小屋さ。あんたら何だね?」

「魔法学院の友人ですわ」

 とソフィアは愛想良く笑った。

「そうかね。あの子に友達が……じゃがレイラはおらん」

「どうして?」

「昨日な、領主様が来てな」

「領主?」

「そうじゃ、魔法学院に行くのに領主様から金を借りてな、それを返せと言われとるんじゃが、レイラの家は働かん父親と身体の弱い母親とまだ小せえ弟だけでな。金なんかない。食うのが精一杯じゃしな」

「それでレイラは今どこに?」

「領主様が連れて行った。学院に通うのを辞めたなら、光のなんとかの力で今すぐ金にする言うてな」

「そうなの、で、おじさん、そのレイラを連れ去った領主はどこにいるの?」

「領主様はこっから北に行ったホルゲの街じゃ」

「ありがとう、おじさん」


 ソフィアはそのまま北の街へ行こうとしたが、ふと考えてそのままレイラの家を訪ねた。

 村の端のみすぼらしい木の小屋は隙間だらけだった。 

 小屋のドアをノックする前に中から罵声が聞こえてきて、ソフィアは足を止めた。


「酒、買ってこいってんだ!」

 酒焼けしたガラガラ声の怒鳴り声と、何かを叩きつけるような音が聞こえてくる。

 木の窓からそっと中を覗くと、

 労働者の作業服を着た顔が真っ赤な男と、部屋の隅にうずくまる女、そしてその女を庇うように立つ頬を腫らした少年。


「金なんかない……」

 とレイラの弟が言い、男は顔を歪めて少年を睨みつけた。

「誰に向かってそんな口をたたいてやがる! てめえ! 金を出せ! お前の娘が光の何とかで国から金をもらったんだろうが!」

「そ、そんな金もうありません……」

「そうだよ! あんたが全部酒に変えてしまったんじゃないか!」

 レイラの弟は涙をいっぱいためてそう抗議したが、男はふんっと言って、大きな手で弟の頬を張り飛ばした。

「レオン!」

 レオンの小さな身体は入り口の方へ吹っ飛んで倒れた。

「生意気な口をききやがって! てめえ、誰が稼いだ金で食わせてもらってると思ってんだ? 薬代だ、なんだと、金ばかりかかって、日がな一日寝てるだけの能なしのくせによぉ、てめえのガキを食わせてるのは誰だって聞いてんだ!」

 男はレイラの母親の髪の毛を掴んで力いっぱい引っ張り、そのせいで痩せたぱさぱさの髪の毛が束になって抜けた。

「母さん!」

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