第二十三話 聖女探索

「ローガン、ちょっと聞きたいのだけど」

 ソフィアがお茶を飲みながら言った。

 もちろん薄暗い自分の部屋だ。

 ローガンとエリオットを味方につけ、ナタリーが消え、両親は田舎へ静養へ、メイドもかなり取り込んでいるので、ヘンデル伯爵家の半分はソフィアの手中にあると言ってもよかった。マルクのメイドもけしかけており、二人の間で争いが勃発するはずだった。


「何ですか?」

 ローガンはソフィアの前に座って、やはり茶を飲んでいる。

「ケイトお姉様は聖女になりうる可能性があるんでしょ? だったら、ローガンと結婚してヘンデル伯爵家を、ってのはないんじゃないの? 聖女は皇太子妃候補にもなるんでしょ? 例え、ケイトお姉様にその品格がなくても、あのお姉様がそれを諦めるとは思えないけど」

 とソフィアは言った。

 ローガンはくくっと笑って、

「確かに。ですがこの男の記憶では、ケイトは皇太子妃候補には無理だそうですよ。なんせ王族に嫁ぐ聖女は処女が絶対条件ですからね」

「あっそ、え、じゃ、恋人がいるの? なのにローガンと?」

「恋人かどうかは知りませんがね。まずはローガンと結婚し、伯爵家の女主人になる。その後、ローガンの不貞を理由に離婚、再婚相手はその恋人では」


「あんた、ローガンの記憶を食ってんでしょ? どうしてそんなケイトの行動まで?」

「そうですね、ローガンはローガンで準備がいるからでは? ケイトがいる限り、自分の自由になる財産などなく、いつケイトに追い出されるやもしれない。密かにケイトの身上を調べ上げ、密かに恋人がいる事も調べ上げていたのでは? そしてケイトがそういうつもりだという事も」


「ふーん、クラスメイトの聖女候補のレイラを相当虐めてたみたいだけど? それは何故? レイラを辞めさせても自分は聖女になれないんでしょ?」

「他にも聖女候補はおりますよ。家柄は凄く上級だが、力は到底レイラにはかなわない。伯爵家の存続の為にはごまをすっておきたいような立場の聖女候補がね。ですがレイラはかなりな聖魔法の遣い手でその魔力量も絶大。ほぼ彼女で決まりだそうですよ。ソフィア様も討伐されないように気をつけないと」

「人を魔物みたいに言うのやめてよ」

 ローガンはクックと笑って、

「ですが、当のレイラは学園でのあまりの虐めに家へ引っ込んでしまい両親と細々と暮らす方が身の丈にあっていると言っているようですよ」

「へえ。そのケイトをけしかけた上位の聖女候補って誰よ?」

「ご存じですかね? レミリア・ハウエル公爵令嬢。彼女は家柄からして元々皇太子妃候補です。だがレイラほどの聖女が現れた場合、王族としては見逃しがたい。庶民ではありますが。王家に聖女の血をいれたいと思うのも間違いではない。皇太子殿下には二人の弟殿下がいて、どちらかが聖女を娶るとなれば皇太子の気持ちも複雑。レミリアにしてみれば、万が一皇太子殿下が聖女を娶るとなれば、次に自分は弟殿下へ嫁がされる。聖女とはいえ庶民の出のレイラが上の立場になるのは我慢ならないでしょうね」

「そうなんだ、面倒くさいね。貴族ってさ」

「何故、あなたがレイラを気になさる?」

「レイラはソフィアの唯一の友達だったからよ。全く、面倒くさいったらないわ」

 ソフィアは立ち上がり、

「久々に会いに行ってみるか」

 と言った。

「しかし、レイラの住む街はかなりな辺境で、行くにも数日かかりますよ。それに、ケイトとマルクの事はどうします?」

 とローガンが言った。

 ソフィアはローガンの方へ手を差し出した。瞬間、無詠唱で放たれる炎の玉。

 ローガンはそれをひょいと打ち消したが、驚いたような顔でソフィアを見た。

「うるせえ! あたしに指図すんな! 殺りたきゃ殺れよ! ナタリーも殺すなつったのに、勝手に殺ったじゃねえか!」

 とソフィアはやけに下品な低い声でローガンを睨みつけた。

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