第十三話 肌が破れ、血しぶきが飛び、肉が裂ける

「ローガン! 遅かったじゃないの!」

 ナタリーはひらひらとした薄い綺麗なネグリジェに着替えをすまして、ベッドに横たわっていた。

「ナタリー、気分はどう?」

 ローガンはベッドに近寄ってきて、側にある椅子に座った。

「最悪よ。ねえ、ローガン、ソフィアの事なんだけど、あの子、魔法が使えるの?」

「何故、そう思うんだ?」

 ナタリーがちらっとメアリを見た。メアリの顔は蒼白で、汗をかいていた。

「今までと様子が違うって、この子達が言うから、ねえ、マイア、そうでしょう?」

 ナタリーの問いにローガンの後ろにいたメイドのマイアは、

「マイアは知らない」

 と答えて横を向いた。

「何ですって! マイア! 主人に向かってその口の利き方は何なの!」

 ナタリーはがばっと上半身を起こし、枕元の鞭を取り上げて振りかぶった。

 それを見たメアリはひいっと顔を腕で庇うような仕草をしたが、マイアはポカンとしたままだった。怯えた様子を見せないマイアにかっとなったナタリーは、

「ローガン、どいて!」

 と叫んだ。

「マイア! そこへ跪いて両手をお出し!」

 マイアはローガンを見て、ローガンは肩をすくめた。

「お待ち下さい!」

 とマイアの前に出たのはメアリで、「どうか、お許しください! ナタリー様!」と膝をついた。

「マイア、あんたも謝りなさい! ほら、早く!」

 とメアリは焦った顔でマイアを見上げた。

「マイア、知らない」

 とマイアは答えた。

 その答えにナタリーの鞭が飛び、マイアの右頬をかすった。

 メアリはひいっと言って蹲ったが、マイアは平気な顔で頬から流れ出た赤い血をぺろっと舐めた。

「マイア!」

 とナタリーが言い、ベッドから起き上がった。

 薄いひらひらのネグリジェは透きとおり、ナタリーは一枚の下着も着けていなかった。

 若く発達した身体はエネルギーに溢れ、むちむちとした肉体にマイアは舌舐めずりをした。

「マイア、まだだぞ」

とローガンが言ったのでマイアは唇を尖らせたが、それでも「はーい」と言った。

 その舐めきった態度はナタリーを逆上させるのには十分で、ナタリーの怒りは足下で跪いたままのメアリに向かった。

 わざわざベッドの枕元の引き出しから新たな武器、棍棒を取り出した。

 その棍棒は短いが、金属の鋭いギザギザがの突起がたくさん埋め込まれていた。

「メイドの分際で!」

 とナタリーは言い、蹲っているメアリの背中にその棍棒を落とした。

「ぎゃ!」

 とメアリは叫んだが、そのままじっと動かなかった。

 この屋敷の貴族達の残虐さは十分知っており、自分もそれに加担して弱い立場の者達をいじめてきた。主人の言うことを聞いておけば安全で、外聞を気にするこの貴族から高い給金を貰っていた。ソフィアに対してもそうだが、新入りの可愛いメイドなどは虐めて虐めぬいて辞めさせるなどは日常茶飯事だった。それでも咎められた事などなく、ただ主人に対して従順なメイドであればよかった。

 逆らうのは身の破滅で、じっと我慢さえしていればすぐに嵐は過ぎる。マイアはもう駄目だろうが、自分だけは助かりたい、メアリはじっとそれに耐えた。

「この! この! 生意気な!」

 ナタリーの棍棒が背中を殴打するをメアリはじっと我慢した。

 金属の突起物が突き刺さり、それは酷く痛かった。

 もう少し、あと少し。

 メイド服の背中部分が破れて、メアリの素肌が見えた。

 すでにその白い肌は傷が付き、血が滲んでいる。

 肌が破れ、血が噴き出し、肉が裂け、背骨へ直接ガツンガツンと痛みが響きだした。

 蹲る、ではなくすでにメアリの身体は床に倒れ込み、ぴくぴくっと動くだけだった。

 メアリの目には自分を棍棒で打つナタリーではなく、冷たい目で自分を見下ろしているマイアを見上げていた。

 

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