第十二話 人間の中身を喰って皮を被る

 目が覚めた時に酷く頭が痛く、身体中汗がびっしょりな自分に驚きながらナタリーは身体を起こした。すぐのお付きの二人のメイドが寄って来て、お着替えをなさいますか、湯浴みをなさいますか、と聞いてきた。

 二人のメイドは青白い顔でおどおどとしていた。

 ナタリーは先程、二人が命令に背いてソフィアを鞭打ちしなかった事を思い出し、

「あんた達、さっきどうしてあいつに鞭を入れなかったの?! あたしの命令が聞けないっての?」

 とヒステリックに怒鳴った。

「も、申し訳ございません」

 二人はぶるぶると震えながら俯いた。

「まあ、いいわ。鞭はお姉様が得意だもの。余計な傷をつけたらこっちが怒られるわ」

 とナタリーが言ったので、二人のメイドはほっと息をした。

「ナタリー様、あの……ソフィアは人が違ったみたいなんです」

「は?」

「本当なんです。魔法を使ったのです!」

「魔法? あの子魔法の素質ゼロじゃない」

「いいえ、本当なんです! 火を……火をつけられたんです! 身体中、燃えて……」

 ガタガタと震え、汗をかき出したメイドの真剣さにナタリーは首をかしげた。

「夢でも見たんじゃないの? 信じられないわ」

「本当なんです! メアリは身体中火だるまになりました! 肉が燃えて、骨が……」

 もう一人のメイド、マイアも泣き出した。

「本当なんです! 身体中、大火傷になった後、回復の呪文を唱えました。そしたらメアリは元に戻りました!」

「何よ、あいつ、魔法が使えるの? そんなバカな……私が確かめてやるわ。とりあえず、湯浴みしてから着替えるわ。嫌な夢を見てね、頭が痛いったら。着替えがすんだらローガンを呼んでちょうだい」

「は、はい……」

 メアリとマイアが顔を見合わせた。

 ローガンの頭が怪物になってナタリーの全身を噛み砕いだ事は二人の脳裏に焼き付いている。

「何をしているの? 早くしてったら」

「ナタリー様、あのローガン様も……化け物になりました……危険です」

「え? ローガンが?」

「はい……きっとあの娘の仕業ですわ! きっとおかしな魔法をかけられているのです!」

「どうか気をつけてください!」

「分かったわ、マイア、ローガンを呼んで来て頂戴。その間に着替えるわ」 


 


「あ、あの、ローガン様」

 マイアに声をかけられて、ローガンは振り返った。

 ローガンは庭の隅に迷い込んで来た黒い獣をじゃらしている様子だった。

「何だい?」

「ナタリー様のお部屋へ起こしいただけ……ますか」

「ナタリー? いいけど」

 身体を起こしたローガンの様子にマイアはびくっと後ずさった。

「ははは、そんなに怯えなくてもいいのに。でも、この子が俺をうらやましいって言うんだ。身体が欲しいんだって」

 と言ってローガンはマイアの目の前に手のひらを差し出した。

 ローガンの手のひらには黒い獣が乗っていた。それは一つ目で口の中にはギザギザの牙がありその奥からにゅっと筒状の長い管が飛び出してきた。

 マイアがそれを見た瞬間にはもうそれはマイアの目の中に突き刺さり、そして少しずつマイアの中身をちゅうちゅうと吸い始めた。

 やがて中身をすっかり吸い出され、マイアは皮だけになってしまった。

「よーし、ほら、人間の皮が手に入ったぞ」

「ニュ」

 と鳴いてその黒い獣は皮だけになったマイアの中にもぞもぞと入って行った。

「お、良い感じじゃん。いいか、お前はこれからマイアだ。で、ソフィア様が俺達のご主人だ。人間の皮を手に入れるチャンスをくれたいい人だ。ちゃんと仕えるんだぞ?」

「ニュ……わ、わかりーましたー」

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