第十一話 両足切断
エリオットは気鬱で腐っていた。
折れた足が上手い具合に回復せず、上半身だけはなんとか身体を起こせるが、食事をするか本を読むかくらいしか出来る事がなかった。
八歳の遊び盛り、どんな我が儘も許され覚え立ての魔法を使いたい年頃の彼がずっとベッドの上というのは耐えがたい時間だった。
普段から我が儘で貴族階級を鼻にかけるタイプなので、見舞いに来る友人もいない。
元気になって学院に戻ればそれなりに取り巻きはいるが、健康を心配するような友人は誰一人としていない。
「なんで治らないんだ? 骨折くらい治癒魔法ですぐだろ! もっと上級の治癒師を連れてこいってんだ!」
ベッドの毛布や枕を叩いてみても、どうにもならない。
そこへ。
「よ、エリオット」
と顔を出したのは、兄のローガンだ。
「兄上!」
ぱっとエリオットの顔が明るくなった。
「兄上! 聞いてよ! 少しも足が良くならないんだけど! 伯父上にもっと上級の治癒師を寄越してくれるように……」
そこでエリオットはローガンの後ろから入ってきたソフィアに目を止めた。
「ソフィア! お前が俺を突き落としたんだろ! この怪我! どうしてくれんだ!」
「うるせえよ、ガキ」
とソフィアが言った。
「な、なんだと! 兄上! ソフィアにこんな生意気な口効かせていいの!」
「まーそう言うな。ソフィアは俺のご主人だから」
とローガンが言い、エリオットはきょとんとした顔になった。
「え、何言ってんの? 兄上! 俺の足を折ったのはソフィアなんだから、罰を与えてやってよ!」
そう言うエリオットにソフィアは微笑みかけた。
「エリオット、足、なかなか治らないでしょ? 骨折くらいで、ねえ」
「は? それがどうした……もっと上級の治癒師が来たらすぐに治るはず」
「本気? あんたの足、腐ってるの気が付いてないの?」
ソフィアはくっくっくと笑った。
「はあ?」
エリオットは腰から下を覆っている毛布を取りのけた。
両足は固定され、包帯でぐるぐる巻きだった。
「何言ってやがる! 骨さえくっつきゃすぐに歩けるようになるつうの!」
「ふふふ」
とソフィアは笑ってから、
「ローガン。真実ってやつを見せてやってみ?」
と言った。
「御意」
ローガンは右手に持っていた金鎚で、エリオットの固定された足の部分を力一杯叩いた。
「わあああ!」
ガツン!と音がし、エリオットの両足を固定していた石膏が割れた。その瞬間、嫌な匂いが室内に漂った。
「ほうら、あんたの足、ただの骨折だと思ってた? 残念、毒も喰らわしてやったから、完全に壊死してる。これはもう切断しないと駄目ね?」
「嘘だ……兄上! 嘘ですよね?」
エリオットはすがるような目で兄を見たがローガンは金鎚を弄び、冷たい笑みを浮かべるだけだった。
「こうなったら、もう駄目ね。腐った足なんていらないわよね。ローガン、邪魔だから切ってやってよ」
とソフィアが言い、ローガンの右腕がさっと上がった。
その右腕は銀色に光るナイフのように尖っていた。
「兄上……そ、そんな、やめて!」
ズシャッ、ザクッと嫌な音がして、ローガンの手によってエリオットの両足は膝から下を切断されてしまった。
「ギャアアアアアアアアアアアア!」
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