第十話 生きたまま喰われる
部屋で着替えをしてからソフィアが階下の食堂まで下りて行くと、ナタリーとローガンが向かい合って茶を飲んでいた。
「ソフィア、一緒にどう?」
と言ったのはローガンで、ナタリーは目を剥いた。
「何を言ってるの! あんな子と一緒にお茶なんか飲みたくないわ! あっちへお行き!」
とナタリーがしっしっと手で追い払うような素振りをした。
「こっちだってお断りよ」
と言ってソフィアはふんと横を向いた。
「ちょっと! 今、何て言ったの!」
カチャンとカップを受け皿に奥音がした。
「あんた達! この生意気な女を鞭で叩いてやりな!」
とナタリーが側で控えているメイドに言いつけた。
ソフィアは二人のメイドをちらっと見た。
二人とも青ざめて、俯いている。
「どうしたの! 鞭打ちの刑だって言ってるでしょ!」
ヒステリックに甲高い声でナタリーは叫んだが、メイドはぶるぶると震えて動けなかった。
ソフィアはにっと笑って、
「ローガンお兄様、私、エリオットのお見舞いに行こうと思って」
と言った。
「俺が案内しよう。エリオットも動けなくて腐ってるだろうから」
と言ってローガンがソファから立ち上がった。
「ずいぶんと悪いの? 骨が折れただけなんでしょう? 治癒魔法で回復しないの?」
「それがね」
「ちょっと、ローガン! エリオットを突き落としたのはそいつなのよ? そんなやつをエリオットの部屋に連れて行くのよしなさいよ。あなた今朝から変よ? そんな女と普通に話をして!」
ローガンは叫び続けるナタリーのすぐ近くに顔を寄せて、
「うるさい。臭い息でがあがあわめくな。喰っちまうぞ、こんな風にな!」
と言った。
途端にローガンの頭が先から二つにぱかっと割れて、ギザギザの突起物が無数についた大きな口のように広がった。それを見たナタリーは、
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーー」
と叫んだが、真っ赤なベロがひょいとナタリーの身体に巻き付き、その大きな口の中にぱくっと食い込まれた。
「た、助けて! いやぁあああ」
とナタリーは叫んだが、それも一瞬の事だった。
すぐにごきゅごきゅっと言う咀嚼の音がし、噴き出す血飛沫、無数の歯の間から飛び散る肉塊、剥がれた頭皮と歯に巻き付く髪の毛。
それを見たメイド達は真っ青になったが、動く事も出来ず、目を閉じることも出来なかった。
「ぺっ」
と化け物のローガンがナタリーだった者の残骸を吐き出し、しゅるしゅると元の人間の姿に戻り、
「余計な事をしたかな?」
とソフィアに言った。
「ええ、まったくよ。そんなに簡単に死なせちゃ駄目だわ。そいつと一番上の姉には最も残酷で醜悪な死に方をしてもらわないと、可哀想なソフィアが浮かばれない」
とソフィアは言ってから、治癒魔法をナタリーへ唱えた。
「あんた達、この女をベッドへ連れて行って寝かせてやって、悪い夢でも見たんでしょうってね」
とソフィアがちらっとメイドを見ると、真っ青な顔でメイド二人がゴクリと唾を飲み込んだ。
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