第九話 人肉を焼く

「ただいま戻りました」

 待っているのはメイドのリリイくらいだが、ソフィアはそう言いながら裏手の使用人用の扉からこっそりと屋敷の中に入った。

 そこらかしに使用人達がいるが、誰もソフィアには返事もしなければ目も向けなかった。

 屋敷の主人と正妻、そしてその子らがソフィアを虐げるので、皆がそれに習い、ソフィアは使用人達にも軽んじられていた。

 廊下を歩いているとどすんと後ろから当たられ、その拍子に華奢なソフィアが転んだ。 その頭に湿った臭い雑巾が降ってきて、嫌な匂いがした。

「あーら、ごめんあそばせ、お嬢様、ふらふら使用人用の廊下を歩いてっから、ぶつかるんですよー」

 見上げると品のないメイド達が二人、笑ってソフィアを見下ろしていた。

 ソフィアは頭から雑巾を取り、立ち上がった。

「何? 文句でも? ナタリー様付きの私らに文句でも?」

 ソフィアがきっと睨みつけた瞬間、ぼっとメイドの一人に火が付いた。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアア」

 すぐに絶叫と人肉の焼ける嫌な匂いがした。

 凄まじい高温の炎はみるみるうちにメイドの身体を舐め、髪の毛を一瞬で焼き尽くし、さらにその肌を真っ赤に焦がした。メイドは手足を動かしじたばたともがいたが、それはまるで踊っているようだった。

「え……!」

 残った一人のメイドは助けようともせず、ただ立ち尽くすだけだった。

「タスケ……」

 と言いながら、もう一人のメイドの方へ歩み寄ろうとするが、もう一人は顔を引きつらせながら後ずさる。

 歩く度に焼けた肌がぼたぼたっと剥がれ落ち、悪臭と黒煙が舞い広がる。

「や、やめて……こないで……」

 燃えてないメイドの足下からちょろちょろと尿が流れ落ちた。


「水激」

 とソフィアが唱えると、ばさっと空気中から水が現れ燃えさかるメイドを包んだ。

 すぐに火は消えたが、超高温で燃えたメイドの衣服も肌も髪の毛も焼き爛れて、その場へ倒れ込んだ。

「嘘……魔法」

 残ったメイドが怯えた顔でソフィアを見た。

「何? ナタリー付きのメイドが私に何の用?」

「い、いえ……」

 ソフィアがパキンと指を鳴らし、「回復」と言うと、焼け爛れたメイドの肌が治っていき、当のメイドも意識を戻した。そしてソフィアを恐ろしそうな顔で震えながら見上げた。

「殺す事が最善だなんて思ってないわよ? 恐怖って奴は植え付けてこそ効力を発揮するものよ。あなた達もそう思うでしょう?」

「は……はい」

「じゃあ、お行き。今度あたしに簡単に近づいたら、両足を引き裂いて真っ二つにしてやるからね。分かった?」

 ソフィアがにやっと笑うと、二人のメイドはその場で泣き出ししばらく動けなかった。

 

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