第2話

 それから、しばらく高校時代の話しをした後、一次会はお開きになった。

 でも、きっとみんな、仲の良かったグループに別れて、二次会に行くんだろうな。


 僕は、どうしようかな、と考えていると、梨花が来てカラオケに行かないかと誘った。

 梨花と仲の良かった、確か花村と足立と大野。それと、僕は余り親しくなかった男子、確かテニス部の須田と本池と田淵。

 あんまり気が進まなかったけど、梨花がどうしてもと誘うので、取り敢えず行ってみる事にした。


 梨花から聞いた話しだと、花村と田淵は、どうやらカップルみたいだった。だから、田淵の仲間と花村の仲間が自然に集まったんだろう。

 でも、何でここに僕がいるんだ?


 他の奴らと喋る事もないし、なんとなく居心地が悪くて、僕は黙ったままカラオケボックスの隅に座っていた。

 その間に梨花は、何曲か今の流行の歌を歌ったが、思ってたよりもずっと上手だった。

 ただ、梨花の性格からして、もっと明るくて元気な歌を歌うのかと思ったが、しんみりしたスローのラブバラードが多かったのが意外だった。


 「ごめん、楽しくない?」

 歌い終わると、僕の横に座って、梨花が言う。

 「いや、そんな訳じゃないけど・・・・」

 言ってから、少し後悔した。多分、僕はどう見ても、楽しそうには見えないだろうなと思って。

 僕は気まずくて、水割りのグラスを口元に運んだ。

 すると、

 「じゃっ、ちょっと外に出ようか?」

 梨花がそう言ったので、僕はびっくりした。


 「いいの、友達は?」

 「いいの、いいの、どうせみんな、カップルになってるし。お金は、後で清算すればいいわ。ちゃんと、花ちゃんに言っておくし」

 ぺろり舌を出して、梨花。

 正直、ここに居るより、梨花と二人の方が気が楽なような気がしたので、僕は素直に梨花に従う事にした。


 僕らはカラオケボックスを出ると、何処に行くあてもないので、そのまま街をふらふらと話しながら歩いた。

 少し歩いただけで、汗ばんで来る。

 隣で歩く梨花は、ノースリーブのシャツにミニスカートで、結構露出が高い事に今更気づいて、ちょっと目のやり場に困った。

 余計に、熱くなってくる。


 「ごめんね」

 また、不意に梨花が言った。

 僕は、何の事か分からずに、

 「えっ?」

 と聞き返した。


 「うん、誘って悪かったかなって思って。でもね、あたし、高校の時ずっと杉山君と話してみたかったんだ。ほら、あの犬の事とか。でも、中々話せなくて、だから今日は隣の席になれて、凄く嬉しかったの」

 「そうなの?意外だな、原田でも躊躇う事があるんだ。原田は、怖いもの知らずだって思ってたんだけど」

 僕が笑うと、梨花はちょっと拗ねたようにムッとした。


 「あたしだって、一応女の子なんだから、色々デリケートなとこもあるの」

 「ごめん、ごめん、ところで原田は、今何してるの?」

 「うん、東京の女子大」

 「へぇ、そうなんだ、僕も東京の大学に通ってるんだよ」

 「知ってる」

 「えっ、そうなの?」

 「うん。あっ、そうだ、これ、電話番号。良かったら、今度電話して」

 急に梨花は早口になって、僕のポロシャツの胸ポケットに、慌て気味に紙切れを突っ込んだ。それから、ちょっと顔を赤らめ、


 「じゃ、あたしもう家に帰らないといけないから。明日、新幹線で東京に戻るんだ。だから、また、良かったら東京で会おうね」

 と言って、そのまま走って行ってしまった。


 残された僕は、呆然としてその後ろ姿を見送ったけど、なんだか胸のポケットが熱くなってきたような気がして、ちょっとドキドキした。

 電話、していいって事だよね、これ。

 女の子に、電話番号を渡されたのって、初めてだ。

 合コンとかに行っても、僕は余り喋らなかったから、女の子にモテた事なんて一度もないしな。


 なんだか自分でも冷めてるなって感じるくらい、僕はどんなものにも興味を持てなかった。だから、女の子とつき合うのも、面倒くさそうだなって気持ちの方が多かった。

 でも、梨花なら、もう一度会ってもいいかな、と思った。

 なんって言うか、梨花の性格がああいう性格だから、僕も自然に話しが出来て楽しかったんだ。


 ちなみに、後で梨花とその時の話しをしたら、あれで梨花は梨花なりに、僕の事を誘ってたんだって知って笑った。

 あんまり色気が無いから、気づかなかったと言ったら、ちょっとめげてたな。


 そういう所も、僕は可愛いなって、心の中で思ってた。

 高校の頃から、梨花は僕が好きだったそうだ。

 けど、本人から聞いた時、僕にはあんまりピンとこなかった。僕が、誰かから片思いされてるなんて、あんまり想像出来なかったから。

 でも、梨花と僕の付き合いは、これがきっかけで始まったようなものだった。

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