君と僕がいつまでも変わらずに君と僕らしくあるために
しょうりん
第1話
僕は、奇跡なんか信じていない。
神も、信じていない。
だって、そうだろ?
奇跡があれば、神がいれば、梨花はずっと笑って僕の側にいた筈だ。
冷たい病院で、白いベッドの上で、こうして今も眠り続けてる筈は無い。
梨花が眠り続けて、もう三年になる。
最後に見た梨花は、笑っていた。買ったばかりのスクーターに股がって、嬉しそうに僕に手を振っていた。
「これをもっと乗りこなせるようになったら、中型の二輪免許とるんだ」
「大丈夫?危ないよ」
「大丈夫、大丈夫、あたし、凄い運がいいんだから」
「本当かな、心配だな」
「あははっ、じゃあ、中型の免許とったら、最初に奏ちゃんを乗せてあげる」
「勘弁してくれよ、僕はまだ死にたくないよ」
「あ~っ、ひど~い!」
そう言ってムッとしてから、梨花は楽しそうに笑った。
帰る時の、なにげないやりとり。でも僕は、それを一生忘れない。
その時から、大好きな梨花の笑顔を、ずっと見る事が出来なくなってしまったのだから。
振り返ると、僕と梨花の出会いは、ドラマチックでもなんでもなかった。
高校のクラスメート。
ただ、それだけ。
当時、梨花は、女友達に囲まれて、何時も賑やかに笑ってる明るい子だった。
僕は地味で、目立たない少年。運動も苦手だし、勉強も目立って出来る訳じゃなく、教室の隅っこの方で、友達数人と漫画の話しをしたりゲームの話しをしてた事くらいしか、当時の記憶は無い。
一方、梨花は、それほど背が高い訳じゃないのに、バスケット部だった。背のせいでレギュラーにはなれなかったみたいだけど、球技が大好きで、学校の球技大会じゃ何時もハリキっていて目立ってだ。
だけど、本当にそれだけだ。やっぱり、ただのクラスメート。
その頃の僕は、梨花の事は、目立っていたけど別に意識してはいなかった。
元気だな、何であんなに何時もハリキってんだろう?
冷めた気持ちで、そんな事を思っていたと思う。
それより、隣のクラスの山村さんが萌え萌えだと話して、友達と盛り上がってた。
僕は、どっちかって言えば、気の強い子より大人しい子の方がタイプだった。
だから、それから卒業式まで、僕と梨花には何の接点も無かった。
次に梨花と会ったのは、高校のクラス会だった。
幹事は、元クラス委員の山根と広岡さん。
東京の大学に通っていた僕は、たまたま盆に帰郷する予定だったので、なんとなくクラス会に出てみる事にした。
場所は、繁華街の居酒屋だ。やっぱ、そういう時は居酒屋だよな。これがどっかのホテルの部屋を借りて、とかだったら気後れして行かなかっただろうと思う。
その日は、時間より5分ほど遅れて行ったけど、まだ人が集まってなくてまばらな感じだった。
それでも、30分ほどたつと、おおよその人数が揃った。
卒業して、二年か。みんな、変わってないような、でも変わってるような、そんな感じだった。
仕事帰りでスーツとか着てる奴もいて、なんだかやっぱり大人になったんだなって、変な感慨を持ったのを覚えている。
結局のところ、出席は半数。まっ、僕のクラスにしたら、集まった方だろう。
結構、みんなバラバラで、団結力の無いクラスだったし。
そんな感じで始まったクラス会は、最初、当時仲が良かった奴らが固まって、昔話に花を咲かせていた。
それから、酒が大分進むと、
「折角だから、男や女ばっかで固まってないで、バラバラに座ろうぜ」
クラスではお調子者で有名だった、太田がそう言ったので、みんななんとなく照れくさそうにしながらも、バラバラになって座った。
僕は、どうせあんま覚えられてないだろうし、特別好きな子が居た訳じゃないから、別に女の子の隣に座りたいとは思わなかったけど、他の男の中には結構ニヤニヤして嬉しそうな奴がいた。
まあ、いいや。
そんな気持ちで、なんとなくビールを飲みながら、余っていた軟骨の唐揚げをつまんでいると、
「杉山君、久しぶり。あたしの事、覚えてる?」
突然、隣に座った人が声をかけてきた。
僕は、そちらに顔を向け、ああって笑った。
「原田さんだろ」
「えっ、覚えてくれてるの!?」
「覚えてるよ、目立ってたから」
賑やかに笑って、彼女は美味しそうにビールを飲む。
相変わらず、豪快な娘だな。そう思って、思わず笑う。
それが、梨花だった。原田梨花。
梨花は、何時でもハッキリしていて、先生でも誰でも違うと思う事はビシッと指摘するような女の子だった。
それなのに、誰も梨花を生意気とは思わない、得な性格をしていた。
明るくて、元気で、何時も笑っているような子だから、何となく周りもそんな梨花の雰囲気にのみ込まれてしまうんだ。
相変わらず、物怖じしない性格なんだな。そう思うと、可笑しかった。
「あたしも、覚えてるんだ。杉山君、学校帰りに犬を拾ったでしょ?」
そう言われて、僕はぎょっとした。
よく、知ってるな?
確かに、学校帰りに捨て犬を拾った事がある。
まだ子犬で、雨に濡れて可愛そうだったから、拾って連れて帰った。
母さんが動物好きだから、何とかしてくれるだろうと思って。
「あれ、少し前からあそこの空き地にいたんだよね。あたしも、ずっと気になってたんだ。でも、うちは借家だから動物駄目だし。そしたら、杉山君が連れてったの。あたし、杉山君が何処に連れてくのか後を追ったんだよ。そしたら、自分の家に連れて入った」
「見てたんだ?声、かけてくれれば良かったのに」
僕は、なんだか盗み見をされたのが恥ずかしくなって、ちょっと咎めるように言った。
すると梨花は、
「うん、そうなんだけど、なにを話せばいいか分からなかったし」
と、照れくさそうに笑った。
「杉山君、何時も無愛想で、あんまり喋らない人だったから。女の子も、みんな怖いって言ってたし。でも、本当は優しいんだなって思って、結構嬉しかったな」
「えっ、僕ってそんなイメージだった?目立つ方じゃなかったけど、それはなんかショックだな」
怖いって言われたもので、ちょっとガッカリして言うと、梨花はケラケラと笑った。
「だって、女子は煩くて嫌い、みたいな感じに見えたもん。あたしの事も、時々バカを見るみたいに見てるような気がしたし」
「えっ、そんな事無いよ。ちょっと元気良過ぎるかな、とは思ってたけど」
「あっ、やっぱりバカだと思ってたんだ!」
「違うよ!僕はただ・・・・・」
慌てて言うと、梨花はアハハっと笑った。
「でも、今初めて知った。杉山君って、自分の事を僕って言うんだ。なんか、イメージ違う~。絶対、俺って言うタイプだと思ってた」
酒が入っているせいか、梨花はよく喋って、よく笑った。
ちょっと気が強くて、ハッキリしたタイプだけど、梨花が笑うとぱっと花が咲いたように明るくなる。
それは、なんだか見てて心地いいものだった。
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