第8話 見守り隊、結成
朝、目が覚めるとエイトは泣いていた。
意識はハッキリしているにも関わらず、体を動かすことができないまま1時間も経ってしまう。
人は睡眠中に記憶の整理をするがエイトも例外ではない。
しかし、彼の記憶の量を整理するのに一度の睡眠時間だけではとても足りない。目が覚めても脳は強制的に整理を続ける。
実験の経過記録、重力魔術で人をすり潰した感触、初めて飼ったペットの死、衛星から見た星の姿、失踪事件の謎解き、死んだ孫の笑顔……
数えきれないほどの記憶が再生され続ける。そのどれにも実感を持てないくせに流れてくる感情と感触は全て本物。
「エイトくん。入ってもいいかな? というか入るよ」
コンコンと鳴る軽快なノック音と問いの後、ツバキとカコがエイトの部屋に入ってきた。
ツバキは手に持つ朝食乗せたプレートをベット横の机に置いた、一方でカコは壁に寄りかかってただじっとエイトを見つめているだけ。
二人のおかげで記憶の整理から逃れたエイト、冷や汗を垂らしながら何とか手足に力を込めて起き上がる。
「あせ、すごいね。おとこのコはみんなそうなの?」
「本当だ。この部屋暑かった? エイトくん体調大丈夫そう?」
「すみません……大丈夫、です。それより僕はここに居ても大丈夫でしょうか? ご迷惑になってしまうので、やはり今日中には帰ったほうが……」
「帰るのは止めないけど自分の家がどこにあるのか、わからないんでしょ?」
「……それはそうですが……」
ツバキはサンドイッチをエイトに渡しながら空いてる片手でお金のジェスチャーを作って見せた。
「うちの食堂、こう見えても割と黒字出てるから男の子一人ぐらいの面倒は見れるよ。だから心配しないで」
真っ直ぐと
彼女は知っている、大多数の人間は外見と態度で人を信用する。だからハッタリをかます時は太々しく、誤魔化したい時はあえて目線を交わす。
「……はい」
「それでね、エイトくんの正体と指輪についてお世話になった先生に診てもらおうと思ったんだけど……新病の患者が急増しちゃったせいで先生の病院が忙しくなっちゃったの。だからもう少し落ち着くまではここで滞在してもらいたいんだけど、いいかな? エイトくん」
柔らかい口調とは裏腹に拒否を許さないツバキの態度、その何とも言えない威圧感は昨日の彼女と似ている。
「わかりました……あの、ホロアはその、メリアさんのボディーガードをしに行ったんですか?」
「そうだよ、今朝嬉しそうに歌いながら出かけたわ」
「そう……ですか」
「……しんぱいのきもち、わたしもわかる。あのメリアとかいう女、いい人じゃない」
「やっぱりそうですよね! 僕なら久しぶりに再会する親友を危険な仕事に誘いませんよ!」
昨日ホロアと会うためにやってきたメリア。
彼女たちの会話に聞き耳を立てていたエイトは何となく直感で怪しいと思った、それはカコも同じだった。
「ホロア、ちからのつかいカタ、ヘタだからしんぱい」
「それにあの凶暴な性格だと絶対余計なトラブルを起こしちゃいますよ!」
「……」
「……」
意外にも意気投合したカコとエイトを見て何か思いついたのか、ツバキはイタズラっぽく笑って見せた。
そして、二人の注目を集めるように指を鳴らす。
「覗きに行っちゃおっか? 狂犬ちゃんの仕事っぷりをさ」
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