1章・ホロア

第5話 十区の狂犬

 ホロアに無理やり連れられて街に出た少年エイト。

 食堂「サン・フラワー」から出た途端に第十区の洗礼を受けてしまう。


 二日どころか四日酔いでゲロを吐き続ける者、快楽魔術にどっぷりと浸かる中毒者、獲物を隠れて探すコソ泥ども、ゴミ箱を漁るホームレスと退役軍人。


 エイトは数え切れないほどの記憶を持つが、これほど醜くおぞましい街を見るのは初めて。顔を嫌悪感で引きずっていると、手を握るホロアが話しかけてきた。


「ピーラ国最悪の区へようこそ〜 ワクワクするだろ? 安心しな、何があってもお姉さんが守ってやんぜ」


「こんな無法地帯のどこにワクワク要素があるんですか!?」


「そう? 堅苦しい第一、ニ区よりは全然自由でよくない? 商人どもに支配された国の法律なんてクソだよ」


「セリフが極悪人のそれですよ……僕はそういうの苦手です、正義でキレイな方が良いに決まってるじゃないですか」


「言うね〜 じゃあ、この街でもキレイ寄りなとこを案内してあげる」


 そう話すホロアの目はキラキラしていて本気でこの区のことが好きらしい。

 エイトは記憶こそ錯乱してるが倫理観はあくまでも常人のもの。「地獄」という言葉はまさに第十区を指し示すための単語だと思った。


 その後、ホロアはエイトに街の重要な施設を案内してあげた。

 ぼったくりをあまりしないパブ、質の良い武器を売る店、見た目は汚いけどめちゃくちゃ美味い露店。

 正直言ってエイトにとってもう一度訪れたい店は一軒もなかったが、ホロアがあまりにも楽しそうで無邪気に案内するものだから、彼女とならまた街を散策しても良い気がしてきた。


「もぐもぐ……やっぱナナさんの焼き鳥は最高だよ……あ! ふふ、私の分食べていいよ」


「きゅ、急にどうしたんですか!?」


 二人で貰った焼き鳥を食べながら「サン・フラワー」に戻る途中、ホロアは何かを見つけたのか自分の串をエイトに渡した。


「強盗みっっけ!! 悪モンならボコしてもいいよなぁ?」


「ちょ、ちょっと、何する気ですか!?」


 疑問系で話しているが誰かの了承を得るつもりはない。ホロアは地面に落ちてあった鉄パイプを拾い上げて、通りの反対側の強盗のもとへ向かった。


 今でこそ「デュラハン」という大型新人が加入してホロアの代わりに戦闘を担当するようになったが、それ以前はホロアが囮をこなしていた。

 

 銃火器を持つ強盗の一人がホロアに気づくとすぐに大声をあげた。


「やばっ、おい! ホロアが来たぞ! 十区の狂犬が来た!」


「うわ、あの暴力バカ」


 強盗たちは即座に標的を店舗からホロアに変えて発砲した。

 しかしその銃弾よりも速くホロアは鉄パイプを振り下ろし、銃身と強盗の骨を打ち砕いて無力化する。


「エイトもやってみる? 悪者の頭をかち割るの楽しいよ」


 退治であれば強盗が無力化された時点で戦いを中止するべきだが、ホロアはあくまでも趣味の為に暴力を振るっているだけ。

 だから店に被害を出そうが、強盗が泣き叫ぼうがホロアの満足いくまで戦いは終わらない。

 ホロアはすでに意識のない強盗の頭をゴルフでも打つかのように追撃する。血肉が舞うほど彼女は狂犬のように舞い、飢える狼のように凶暴さを増していく。


「……うわぁ……十分ですから、もうやめてください!」


「はぁ? ……──……クソ真面目かよ。しょうがない、今日はこんぐらいで勘弁してやるか」


 エイトの言葉で興醒めしてしまったホロアはグニャグニャに曲がった鉄パイプを捨てて、邪魔な強盗したいたちを車道側に蹴り飛ばす。

 手に付いた血を見ながらホロアは強盗たちが襲おうとしてた店舗に入っていく。

 

「ねぇー マーリケちゃん、強盗たち追い出してあげたよ! 血、洗いたいからトイレ貸して〜」


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