第2話 ゴーストの集う場所
この世界に絶対的な巨悪は存在しない。
コードネーム・ファニ、ラビット、ウルフ、デュラハンの4人で構成された窃盗団、それは紛れもなく悪の存在であるが人類や星を滅ぼすほどの脅威ではない。
絶対的な巨悪である魔神はすでに人類の手によって焼却された。
魔法を失った人は代わりに科学と魔術を発展させた。
人は山や海を割くだけでなく、魔法ですら到達し得なかった宇宙への旅立ちという偉業をやり遂げた。
領域を空の外まで拡大させた人々、彼らは百の衛星で魔神の住まう孤島にサテライトキャノンを撃ち込んだ。
その結果、魔神どころか孤島丸ごとが世界地図から消えた。
だからこれは魔を打ち倒す勇ましき者の話でも、世界に闇と悪を蔓延させるような話でもない。
これは「Moon Ghosts」のメンバーと十の指輪に関する少し奇妙な記録である。
場面を戻そう。
新病の特効薬サンプルを盗むため、ラビットとウルフは国立物流倉庫へ忍び込んだ。
しかし、目標を見つけた彼女らは不思議な光景を目にする。それは薬品サンプルなんかではなく、何故か指輪だけつけた全裸の少年であった。
「フレデリカ……これ、ど、どういうこと?」
「動揺は構いませんがコードネーム忘れてますよ」
「あ! ごめん、ラビット」
「……この子を連れて行きます」
「えぇええ!? 本気?」
「彼の血液には免疫がある……とかかもしれません」
「な、なるほど……?」
そう話しながらもウルフはずっと少年の裸体から視線を逸らしていた。さりげなく少年の股間をチラチラと見ていたが、分かりやすいのでラビットには全てバレている。
反対にラビットは特に気にすることなく、少年の腹部を肩に乗せて担ぎ上げる。パワーギアのおかげで車両を持ち上げることも可能なので、少年一人の体重如きで何の影響もない。
「ウルフは先に出て、外で交戦中のデュラと合流してください。私は倉庫の入り口監視塔の付近に潜めますので、この子の衣類を適当に用意して迎えにきてください」
「オッケー! 私に任せんさいよ!」
ピーラ国第十区外れ、窃盗団アジト。
少年を連れてラビットたち3人は無事帰還した。
アジトの扉を開くと、ソファーに座っていた4人目のメンバーでリーダーのファニが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえり、みんな! 大丈夫? 追手とかいないよね?」
「大丈夫大丈夫! 今回もデュラが全員倒してくれたぜ」
「さすがねデュラハン。いいえ、もう仕事は終わったから今はカコ、よね」
いつもならファニがメンバーの本名を呼ぶことは仕事終了の合図なのだが、帰還した三人ども仮面を外そうとしない。
盗み自体は無事成功したのだが、回収したブツがイレギュラーで依頼主に確認してもらわないといけない。
ねむる少年の顔をじっと見つめるデュラとウルフを放置して、ラビットはリーダーのファニに経緯を詳しく説明した。
「……なるほど、確かに妙ね。依頼主さんに聞いてみるわ」
そう言うと、ファニは机の引き出しから巻物を取り出して開封した。それは時空間に関する魔術紙でムーンゴースツが商談する際に用いる通信手段。
電子機器では内容を盗聴される可能性があるので、こういうレトロで単一性な魔術の方が断然危険性が低い。
ファニは依頼主に呼びかけようとするが、魔術紙は起動すらしない。
「……ファニ、大丈夫ですか?」
「魔術紙が起動しない……」
「こんな深夜じゃ寝てんじゃね? ほら、デュラも少年の横で寝ちゃってるし」
「魔術紙は対象者の脳や魂と直接リンクする、寝てようと起きてようと関係ない……それなのに魔術紙は起動すらしないということは……」
何か恐ろしい事件に巻き込まれたのではないかと、ファニは冷や汗を垂らして背後でねむる少年を睨む。
「……──……依頼主はすでに死んでしまったんだ」
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