序章・出会い

第1話 窃盗団と少年

 「Moon Ghosts(ムーン ゴースツ)」と呼ばれる集団のことは知っているだろうか?

 義賊と讃える人間もいるが、私情抜きにすればヤツらは夜にしか出現しないただの窃盗集団。


 そして、ゴーストの二人は今日もピーラ国の街を颯爽と駆け抜けていく。


「ウルフ、今日はなんだか追手が多くないですか?」


 そう言いながら兎と白狼の仮面を被る二人の少女は屋根伝えで逃げる、そして背後には十人以上の傭兵が追いかけている。

 追う側も逃げる側も軽々しく5メートル以上の障壁を飛び越える、そんな彼らの超人的な身体能力を支えるのは外付け式のパワーギア。


 かつて世界には「魔法」と呼ばれる現象が実在していた、しかしある時期を境に魔法の痕跡は地上から消えてしまった。

 失った魔法を補うために人々は「魔法を模倣した劣化魔術」と「機械工学」を発展させてきた。

 窃盗団と傭兵のパワーギアはそれらの技術の結晶である。


「多いね……しかもアイツら、新型のパワーギアを貰ってるから全然振り切れねぇ!」


「まったく……デュラ早く来て……」


 傭兵らは少しずつ距離を詰めていき、あと一息で目の前の窃盗少女に手が届くその次の瞬間、上空から黒鋼の巨剣が飛んできて傭兵と少女たちを隔てた。


「……おまたせ」


 剣に遅れて着地した白銀長髪の少女が呟く。

 彼女の被っている真っ黒の仮面を見た傭兵は一斉に戦闘体制に入った。


「黒鋼の剣と仮面……気をつけろ! 百人殺しのデュラハンが来たぞ!!」


 デュラハンと呼ばれる少女はパワーギアのような補助機械を装着してないにも関わらず、地面に深く突き刺さった巨剣を簡単に引き抜いた。

 過去の戦闘記録に映った黒い仮面の彼女はまるで顔だけ塗り潰された首無しに見えていた、故に黒い仮面の少女は「デュラハン」と呼ばれるようになって畏れられた。


「やっと来たぁ! それじゃデュラちゃん、足止めよろしくっ!」


「ウルフと私はブツの回収に向かいます」


「うん、まかせて」 


 殿の到着でウルフとラビットはやっと逃走劇から解放された。






 ピーラ国立第三物流倉庫。


 デュラハンと別れてから30分、ウルフとラビットは目的地の国立倉庫に着いた。事前に依頼主からもらった位置情報と収納番号をもとにターゲットを探す。


 今回の仕事内容の容易さに対して、報酬は驚くほど高額だ。

 国の魔術開発の事故で生み出された伝染性の高い新病、今回の目標はその病の特効薬サンプル。

 先に薬を入手できれば市場を独占できる、ついでに人も救えて評判も上がる。民間のくろい製薬会社はそんなおいしい獲物を放置するはずがない。

 

 お目当てのコンテナを見つけると、ウルフとラビットは懐からレーザーカッターを取り出して扉に穴を開けた。


「ウルフ、回収をお願いします。私はファニとデュラに報告します」


「オッケー! …………ん? キャァアーー!!」


 窃盗団本部で待機していたリーダーのファニーに報告しようとしたその瞬間、コンテナ奥に入ったウルフが悲鳴を上げた。

 ラビットはすぐさま駆け寄ると、ウルフは何故か両手で真っ赤な頬を隠している。


 トゲトゲしいピアスにチョーカーといったパンクな見た目とは裏腹に、ウルフは以外にも乙女な部分を持つ。

 そんな彼女が指差す先に視線を移すと、そこにあるのは目標の薬品サンプルでも実験動物でもない。


「どうしましたか? ウルフ」


「あ、あ、ああ、アレ……」


「え……全裸の男の子?」


 七色の指輪をつけた全裸の少年が気を失っている。


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