クズその45【ちゅぱちゅぱ】
回避アイテムとして機能しない二人に見切りをつけた俺は、真正面を向きOL風痴女の顔を見据えた。
潤んだ瞳が美しい──正直、このままキスしてしまってもかまわない。ある意味、こんな美人に唇と命を奪われて人生を終えられるのなら、幸せなんじゃないだろうか?
もはや男であろうが、女であろうがどっちだっていい──そう思ってしまうぐらいOL風痴女は美しい。
でも……でもダメだ、ダメなんだ。俺の死はイコール移ちゃんの死。本人は異世界で楽しくやっているかも知れないが、移ちゃんがこの世界から消えてしまうのはやはりダメだ。
彼女は自業自得、因果応報で餓死した俺、葛谷遼とは違って、みんなに必要とされている人間なんだ……だから、だからまだ俺は死ねない!
そう決意を固めて絞り出した回避行動、それは素直に謝る事だ。
頭を下げ、誠心誠意全身全霊で「思わせ振りな態度をとってごめんなさい!」と謝るんだ。そうすればOL風痴女だってきっとわかってくれるはず。
よし……。
唇をちゅぱちゅぱさせながら、顔を近づけてくるOL痴女──それに対して俺はゆっくりと頭を下げ始めた。お互いに、そして同時に気持ちを行動に表したその時だった。カーブに差し掛かり、横Gという名の揺らぎが、俺とOL痴女との距離を瞬時に縮めた──
ゴン! いや、ガン? はたまたボクッ? 正確な音は表現出来ないものの、おでこに衝撃を受けた後、頭の中に鈍い音が鳴り響いた。直後、顔を上げるとそこにOL風痴女の姿は見当たらなかった。
「……あれ?」
周囲を見渡して、もう一度顔を下げてみると、そこには鼻血を垂らして倒れているOL風痴女の姿があった。
「だ……大丈夫ですか?」
謝ろうと思って起こしたアクションがまさか頭突きに変化するとは……やっちまったぁあああ!
☆
駅に到着し、駆けつけた駅員がOL風痴女を介抱しながら「……あれ? この人」と呟いた。
駅員は無線で何やら会話を始めると、程なくして二人の警察官が駆けつけた。そして、失神しているOL風痴女の顔を覗き込み、「あらら、またやっちゃったの?」と意味深な事を言い出した。
「何々? この人なんか訳あり的な感じなんですかぁ?」
キッチョンがずけずけと警察官に質問をぶつける。動画しか見ていなかったのに、ゴシップの匂いがした途端この態度……やれやれだよ。
「あぁ。この人ね、女性専用車両に女装して乗車してはターゲットを探す性癖があるみたいで、いわば痴漢ですな。まぁ、ほぼ未遂で終わるのでいつも厳重注意してるんですが、懲りなくてね。ついに痛い目見ちゃったか……てな具合ですよ」
危なかった。めちゃめちゃ危なかった。もしも、キスされていたらガチで即死だったじゃないか。
俺は胸を撫で下ろした──回避行動は間違いではなかったと。しかし、一歩間違っていたら……と思うと身の毛がよだった。
ある意味、命のやり取りを行った俺は、とてつもない疲労感に見舞われた為、キッチョンとすーちゃんに体調不良を訴え、そのまま帰宅した──
ゴブリンに転生するはずだった俺が、ムリゲークリアしたら勇者に転生出来るワンチャン物語 ミルシティ @millcity
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