クズその37【猫ちゃん】
俺は女神ルナが埋まっていたぬいぐるみの山の中から、現状に最も適した『アイテム』を発見した。
……よし。準備は整った。
透視で縁ちゃんの状態を確認しつつ、クローゼットの扉をゆっくりと開けた。そしてタイミングを見計らって、縁ちゃんに向かって猫のぬいぐるみを山なりに投げた。
「猫ちゃん!」
縁ちゃんは作戦通り、ぬいぐるみを両手でキャッチした。よし! これで俺を破壊する凶器を、一瞬封じ込める事が出来た。
縁ちゃんの隙をついた俺は勢い良く扉を開いた。目指すは玄関。まずはこの部屋から脱出だ!
魔法【超高速移動】発動!
「ぐぶっ!」
発動と同時に真正面の壁に激突した。
あれ? あれれ? あれれれ? 未だかつて体験した事の無い加速と衝突によって、意識が吹き飛びそうだ。
壁から床にずり落ちながら、途絶えそうになる意識を何とか保ち、思考を巡らせた──あぁ、そうか。超高速で移動出来るとしても、そのコントロールは発動した人間の身体能力で制御しなければならないのか。
身動きが出来なくなっている俺の元へ、縁ちゃんがゆっくりと近づいてきた。
「……ワレ、キモいだけやなく、サイコパスやったんやな」
は? いや、待て待て、待って~な。思わずエセ関西人になりかけるわ。サイコパスは君だよね?
「あの中で、猫ちゃんを……姉貴の大切な猫ちゃんを…………」
お~い、おぉ~い。君は大いなる勘違いをしてますよ~。戻ってこぉ~い、こっちだよ縁ちゃ~ん、戻ってこぉ~い。
「……この悲劇はワイの責任や。もっと早く、ワレを絶命させておけば、こんな事にはならへんかった。ワイが……ワイが確実に仕留めとったら……」
起きてないよ! 猫は居ないし、何も起きてないよ! むしろ悲劇を起こしてるのは君だよ!
「──うぎっ!」
強烈なローキックが四つん這い状態でダウンしている俺のケツに炸裂した。そして、縁ちゃんは床に横たわる猫のぬいぐるみを指差した。
「……見てみぃ。猫ちゃん、もう動かへん。まだまだ沢山遊びたかったやろな……それをこんな腐れ外道に猫生を終わらされるとは、さぞかし無念やったやろな……その無念、ワイが晴らしたるさかいな!」
「いや、それはぬいぐる──みっ!」
俺の言葉など一切耳に入らない縁ちゃんは、続けざまに俺のケツにローキックを炸裂させた。
「あぎゅっ!」
何度も、何度もケツに炸裂するローキック。まるで鉄の棒を打ち付けられているような激痛がケツから全身に拡がってゆく。
ぬいぐるみと本物の区別もつかねーのかよ。ヤ、ヤバい。このままではケツに植え付けられた『爆弾』が破裂する。
最悪な事に、葛谷遼は『痔主』だったのだ。そんな部分までしっかり再現している所が、余計なお節介というか、もはや完全に悪意と言っても過言ではない。
「うおらぁ!」
「あぐっ!」
絶え間なく炸裂する縁ちゃんのローキック。もう……駄目だ。とても耐えられない。とにかく、まずはこの激痛から離脱しなければ『痔盤沈下』が発生してしまう。俺は死に物狂いで体制を変え、四つん這いのまま身体をリビングの方向へ向けた。
魔法【超高速移動】再発動!
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