クズその36【超優良事故物件】

「じゃあ、案件の説明始めまーす。今回、なんとゴブリン以外の転生権利を持ってまいりましたぁ、パチパチ♪」

「ゴブリン以外?」

「そ。一応さ、今回こんな超めんどくさい事になってるのは、一応あたしの責任でもあるじゃん? だからぁ、一応お詫びっていう意味も込めて、ゴブリン一択だった転生じゃなくてぇ、一応選択肢を増やした訳。どぉ? どぉよ?」 


 一応一応って、確実にお前がヘマこいたんけどな! 

 なるほど、そういう事か。つまり、コイツは頑なにゴブリン転生を拒否し、キスによる勇者への転生を目指す俺の野望を何がなんでも阻止しようって魂胆か。

 なんて浅はかで、あざとい奴なんだ。でもまぁ、転生先にもよるしな、聞くは一時の恥ってやつか……とりあえず話だけは聞いてやろう。


「わかったよ。で、ゴブリン以外の転生先は?」

「ふふ~ん、聞いて驚かないでよぉ。何と! 胸キュン魔法使い、ご用意しましたぁ! いや~、頑張った。あたし、めっちゃ頑張った。だってこの転生権利ラスイチだかんね、ラスイチわかる?」


 すんげぇドヤ顔かましてくるなコイツ。

 しかし魔法使いか……しかも胸キュンって。これはもしや当たり? 無理して勇者に転生するよりかいいんじゃね? 移ちゃんには申し訳ないけど、縁ちゃんから凄惨極まりない暴行受けて絶賛絶体絶命中だし、このまま転生さえしてしまえば、痛い思いをする事ないし。


「へ……へぇ~、中々良さげっちゃ、良さげだな」


 強がれ俺! 弱味見せんな俺! こういう輩はナメられたら終わりだからな。


「そうなのよ、良さげどころか超優良事故物件だよっ!」

「事故……物件? ちょっと待て、超優良はいいとしてだ、事故物件ってどーゆー事?」

「この魔法使いは、超カワイイんだけどぉ、ステータスが笑っちゃうぐらい低くて、ほぼ魔法使えないし、レベル全然上がらないんだよね~。ギルドで声も掛けられないからパーティーにも入れてもらえないしぃ、魔王直轄の異世界風俗店ぐらいしか働き口がありませぇーん! キャハハ! ウケるっしょ!」


 いやいや、一人で腹抱えて笑ってるけど、それは魔法使いというよりかは、もはや魔法使えないだよね? つか、俺、完全にナメられてるよね?


「あのさ、それってある意味ゴブリンよりも過酷というか、何というか……」

「は? は? はいぃ? 何々、あたしが遼くんの為にゲットしてきた転生権利を破棄するとでも?」

「いや破棄っていうか、出来ればもう少しマシな転生先を……」

「はい出たー、はい文句出たー、出ると思ったけどやっぱり出たー。これだからこのクズは……ねぇ遼くん、この転生権利を探すのにあたしがどんだけ苦労したと思ってんの? 君がゴブリン嫌とか言うから、選択肢増やしたっていうのさ」


 ヤバい、おだてから論破にシフトしてる。こんなのは到底承諾出来ない……無論却下だ。突っぱねる以外ない!


「いや、だから勇者に転生する為に頑張ろうと……」

「そんな雲を掴むようなクエストをクリアするなんて、遼くんには不可能だって! だからせめてゴブリン以外の転生権利をゲットしてきてあげたんだよ? なのに文句ばっか垂れ流されてさぁ。失礼極まりない事この上ナシッシングだよ!」


 ……うわぁ、結構なパワープレイに持ってこうとしてる。恩着せがまし感半端ないわ~。確かに、いくらカワイイ魔法使いとはいえ、行き着く先が魔王直轄の風俗店だなんて、詰みじゃん。希望の欠片すらじゃないか。あれか? やさぐれたオークとかの相手をしなくちゃいけないのか? 哀しすぎるだろ、そんな異世界風俗嬢生活。ある意味、ゴブリンで即死した方がマシなんじゃないだろうか?


「う~ん……探して来てくれた事に関しては感謝してるけど……やっぱりなぁ」

「あー! この優柔不断クソ野郎! さっさと決めろっつーの! ラスイチだよラスイチ! わかる? ラスイチ!」


 いや、ラスイチ強調しすぎじゃね? てゆーか、転生案件でラスイチってどーゆー意味なんだ?


「ところでルナさん。その転生権利、どういう状況でゲットしたんですか?」

「え? 何年も買い手がつかないって言うから、底値で買ってあげたの。それが何か?」

「単なる売れ残りじゃねーか! つか、自分のミスをさっさと挽回したいだけだろ!」

「当っっったり前じゃん!」

「……もういい、交渉決裂だ。俺はこの状況を自分の力で打破するから、もう帰ってくれないか?」

「あ……そ」

 女神ルナは瞬時に無表情となり、「じゃあ無惨に撲殺されなよ。バイバーイ」と告げてクローゼットから姿を消した。


 全く、こんなタイミングで一方的に不利な話しやがって。絶対わざとだよな。さてと、そんな事はさておき、この危機的状況下を切り抜ける為のアイテムを探さないと。

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