クズその35【強いられる選択】

「ニャ~ン」

「……ね、猫ちゃん?」

「ニャ~ン、ニャ~ン」

「あぁ、猫だよ。人質……いや、猫質を助けたかったら、速やかにこの部屋から出て行ってくれ」

「……なんやて?」

「頼む! 俺だって本当はこんな事したくないんだ。この部屋から出て、リビングに移動するだけでいい! そしたら猫は無事に解放する!」


 俺が立てた最終脱出プランはこうだ――

 まずは魔法【高精度猫の鳴き声】で、あたかも猫が居るかのように偽装し、それに食いついた縁ちゃんを一旦このウォークインクローゼットから出す。そして、魔法【超高速移動】を使用してここから脱出する。


 この魔法は、五メートル以内であれば瞬時に目的地へ移動出来る。

 コイツを引いた時は正直ハズレだと思った。何せ、五メートル以内を高速移動して一体何のメリットがあるのだろうか? アホなのか? と。 

 しかし、まさかこれが命綱になるなんて、『遼(バカ)と魔法(ハサミ)は使いよう』とはまさにこの事かも知れない。


「……ええやろ。猫ちゃんの命が最優先や。ワレの要求を飲もうやないか。まぁ、せいぜい無駄な悪あがきしたらええ。ほな、ワイはリビングに移動するさかいな」


 よし、とりあえず第一段階は成功か。後はタイミングを見計らって──


「……ド変態キモ野郎が猫ちゃんを解放した瞬間高速タックルでテイクダウンを取ったらマウント状態からタコ殴りやな……顔面陥没させたるで」


 何か滅茶苦茶物騒な事ブツブツ言ってる! 心の声がダダ漏れですよー!


 俺はスマホのライトを点灯させ、使えるモノが無いか必死に探した。どうやらこのスペースは、ぬいぐるみを収納する場所らしい。


 え~っと、ライオン、シマウマ、羊、女の子。ん? 女の……子?


「やほ」

「うわあああああああぁぁぁぁぁ!」


 なんと、ぬいぐるみの中に女神ルナが埋まっていた。


「どぉも~お疲れ様でぇす。調子はいかがですかぁ?」


 ぬいぐるみに埋まりながら、ヒラヒラと手を振る女神ルナ。いやカワイイけど! こんな危機的状況ですらカワイイけども!


「おい! 何処に出没してんだよ! 心臓止まるかと思ったわ!」 

「いやね、今日は遼くんにとって凄く良い案件を持ってきたんだよぉ~、にゃはん♪」


 にゃはん♪ 招き猫女神もカワイイ~、じゃねーわ! 

 案件て、コイツこの状況わかってるのか? 俺は今そんな事に耳を傾けてる余裕は一切ないってのに。


「てゆーかさ、もう少し小声で喋ってくれよ。扉の向こうには暗殺者が居るんだぞ?」

「あー、それなら大丈夫大丈夫。とりあえず時間、止まってるから」


 あ、そうか。『女神出現=時が止まる演出』だったな。なら、この演出を利用すれば、ここから脱出する事も可能じゃないか? 大チャンスに気付いた俺は、「よし!」と意気込んで扉を開けようとした。

 

 が──身体が動かない。何故か、動かない。 


「は? 何で? おい、何で動けないんだよ!」

「動かしたら逃げるじゃん。だからわざと」

「いや待て! とりあえずこの状況を切り抜けないと、キス転生出来ねーだろ!」

「えー、だってぇ、それがあたしの狙いだもんっ、えへへ♪」


 ちょっと待て待て! 狙い? 何言ってんだコイツは?


「じゃあ、案件の説明始めまーす。今回、なんとゴブリン以外の転生権利を持ってまいりましたぁ、パチパチ♪」

「ゴブリン以外?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る