クズその33【アスタリスク】

「……姉貴は何処や? 何でお前みたいなキモいド変態野郎がここにおんねん」


 なんで関西弁やねーん! お前生粋の東京人やないかーい! 

 ……いや、そんなライトなツッコミを入れている場合ではない。何で時間が止まってないんだ? まさか、緊張のあまりタッチをミスったか?


 俺は魔法リストを確認した。


【使用履歴 二秒だけ時間を止める】


 ……は? ちゃんと使ってるじゃんか。なのに何で………? 魔法の詳細を呼び出した。


【詳細 この魔法を使用すると、半径五メートル圏内の時間を二秒間だけ止める事が出来ます*】


 ……ま、まさか。俺は【*】をクリックした。


【*注意事項。使用した本人もニ秒間、時間が停止します】


「ア、アアアアアスタリスクゥゥゥゥ────?」

「何が明日リス食うじゃ、ボケェェェェ────?」

「……はい?」


 グチャリ──と、気色の悪い音がした。縁ちゃんは俺の頭髪を鷲掴んで、顔面に右膝を突き立てた。


「グべェ!」


「……おい、ワレェ。この状況でよくスマホなんざイジレるのぉ。ワイの事なめんとんのかコラァ!」


 ……ワイ? いやいや、靴ならいくらでも舐めますが、一体どーなってるの?

 この変貌ぶりは尋常ではない……てゆーか、滅茶苦茶痛い!


「おいコラ、ド変態野郎。姉貴は何処におるんや?」

「え……えっと。移さんは本日のっぴきならない事情で、お出掛けしていまして。明日、ご帰宅する予定です」

「……ほぉ。で? ワレは姉貴のなんやねん?」

「ぼ、ぼぼぼ僕ですか? 僕は……その、いわゆる『何でも屋』でして、移さんから留守番を依頼されたのです」

「留守番……?」

「は……はい! なので、決して怪しい者ではありません」


 恐怖のあまり咄嗟に嘘をついてしまった。だが、とにかく何とかこの場を切り抜けるしかない。


「で……? ワレは、留守番の仕事中に何で姉貴の下着を身につけとんのや?」

「……あ、いやこれは、諸事情で着られる服がなくてですね……決して変態的思考でお借りしている訳ではないんですよ。ハハハハ」

「……ふ~ん」


 縁ちゃんの右脛が左側頭部にヒットし、俺は激しく床に叩きつけられた。


「何がハハハハ……じゃコラァ! そんな理由で納得するわけないやろがィ! 着る服が無い? ほな、ワレは全裸でここまで来たんかボケェ!」

「……う、ううう」


 この打撃力……昔イジメられてた時に、ヤンキーから受けた暴行以上だ。


「なぁ、変態クソ野郎。ワレが今、身につけとる下着な、ワイが姉貴の『誕生日』にプレゼントした下着なんや」

「えっ?」

「……姉貴はな、『ピンクのリボン超カワイイ~。ユカリンありがとね、大切にするっ!』って、めっちゃ喜んでくれたんや。そんな特別な下着を、一ヶ月放置した生ゴミみたいな激キモ野郎が履いてるんやで? そりゃあもう、選択肢は一つ……」


 選択肢? それって……もう嫌な予感しかしない。


「……な、なんですか?」

「殺すしかないやろがィ!」

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