クズその30【呼ぶか】

「ああああ……イヤャアアアアアアアア──⁉」


 阿鼻叫喚。もはや断末魔と言っても過言ではない程の絶叫を上げた。


「……な、なんで? なんでぇ? 一体どうなってるの!? 移ちゃんの美貌のまま男性化するんじゃないの?」


 テンパった俺は、とりあえず近くにあったトートバッグに頭を突っ込み、「ウワアアアアアアア──!」と叫んだり、顔の頬肉を両手で掴みながら、「ピイイィィギギギギィ──!」と奇声を発したりしてみた。

 あぁ……人は想定外の出来事に遭遇すると、異常行動を起こしてしまう生き物なのか。

 しかし……しかしだ、こんな事をしていても意味が無い、我に帰れ遼! と、無理矢理自分に言い聞かせた。


「……落ち着け俺。とりあえず、まずは確認を」


 スマホを手に取り、魔法アプリを起動させた。


「え~っと、タイトルタイトル……」


【一日だけ男性に戻れる*】


 ……ん? これは?


 タイトルの後についている『*』を指先でタップした。


【*この魔法は、仮転生前の男性の姿、在りし日の貴方の姿に一日だけ戻れる能力です。懐かしさに浸るもよし、過去を振り返り、自分自身を見つめ直すもよし。束の間の一時をお楽しみください】


「……これ、もしかして注意事項? え? え? う、ううう……うおおおぉぉぉおおおい! 何で注意事項に*(アスタリスク)使うんだよ! この場合どー考えても※(コレ)だろうが!」


 俺の煩悩をもて遊ぶ、明確な悪意ある文章。まるで運転免許試験や特殊詐欺のような引っかけじゃないか。

 過去に内容をしっかり把握しないまま餌食になった経験が、仮転生後も活かされる事はなかったという事か。


「……はぁ。仕方ない、後の祭りだしな」


 移ちゃんも銀行のキャッシュカードの裏面に暗証番号を記載しているようなセキュリティの緩い女の子だし、これ以上嘆くのは時間の無駄だ。


 何せ──今の俺には『金』があるのだから。


 大学生とは思えぬ移ちゃんの貯金額。彼女から受け継いだ(勝手にそう思っているだけだが)この財産こそが、今の俺にとって最大の強みだ。


 ……さて、どうするかな。この姿でナンパは絶望的だし、仮に金をチラつかせたとしても、美人局に遭遇する可能性もある。ならば、レンタル彼女でも借りて、ワンチャン狙ってみるか?


 俺はとりあえず着れる服の捜索を始めた。そして、それから三十分が経過した──


「……マジか。マジでか」


 無い。


 一着足りとも着られる服が見つからない。


 ジーパンなどのボトムス類は全てローライズのスキニー系極細パンツなので、毛まみれ醜短足など足の甲までしか入らない。更に、Tシャツも超絶タイトなモノばかりなので、成人男性が着用すると、ほぼ子供服だ。かといって、仮にワンピースなどを無理やり着たとしても、もはや変質者にしか見えない。


 金はあるのに外出する服が無い──なんという本末転倒ルート。どうにかしてこの状況を打破しなくては、キスポイントが稼げない。


 俺はコスプレ衣装の中から、着れそうなモノをチョイスし、鏡の前に立った。


「え~と、これは……う! オエエエェェェェ──!」


 鏡に映った自分の姿を見て吐き気をもよおした。


「……ま、まさか自分の姿を見てえづくとはな。葛谷遼、我ながら恐るべし」


 その後も様々なコスプレ衣装をフィッティングしてみたが、何一つフィットしなかった。


「……う~ん。参ったな。ガチで着れる服が無い」


 このまま無い物ねだり状態を続けていても、時間が無駄に過ぎるばかり。この貴重な時間は最大限に活用せねばならない。


 そして試行錯誤の末、俺は閃いた──


「……そうか。家から出れなければ、『来て』もらえばいいんだ」


 世の中、出張型『ムフフなお店』が数多に存在する。自宅ならば、この凄惨なランジェリー姿の野郎が客だとしても、派遣された女の子は、『あぁ、そういう趣味の人なのねキモ……』ぐらいにしか思わないだろう。別に変態だと判断されようが構わない。それは一時の恥。どうせ転生したらこの世界からアディオスだし、二度と出会う事も無いだろう。


「……よし」


 俺は早速スマホを取り出し、出張型『ムフフなお店』をダイレクトに検索した。

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