クズその27【神スイング】

「ブヒョヒョヒョー! 歓喜の極まりであります!」


 ……やられた、ハズレだ。仕方がない、こうなったらなるべくどーでもいいゲームを引かないとな。


 万が一にも【キス】だけは絶対に避けたい。仮に引いたら、全力でビンタを喰らわして回避だ。


 俺はプレイング・ルーレットを回し、再びダーツのアイコンをタップした。


【二十五】


 二十五か……キスではなさそうだけど。


【定規でムフフ】


「くおぉぉぉ! 【定規でムフフ】を出しおったか! 羨ましい! 羨ましいぞ田中の!」

「鈴木氏、申し訳ないであります。では早速……」


 田中は体を小刻みに震わせて悔しがる鈴木に軽く会釈をすると、リュックの中から大、中、小、三種類のアルミ製定規を出して、俺の目の前に並べた。


「さぁ、女王たま、お好きなサイズをお選びくださいであります」


 何だよ定規って。こんなモンでどうやってゲームすんだ? っていうかこいつ、準備万端だな。こんなもん常備してんのか?


「え? えっとぉ、これはどんなゲーム……だっけ?」


 さっきと同様に俺がごまかすと、


「前に我が当選した際は、この小さい定規にて『シッペ』をされたな。くおぉぉぉ! やはり羨ましいぞ田中の!」


 鈴木が悶絶の表情を浮かべ、割り箸をへし折った。


 シッペ? ははぁーん、なるほど。この定規を使った『ソフトSMプレイ』って訳か。このクソドM共が……いいぜ、ならお前らが望むプレイの斜め上を行ってやってやんよ。


「じゃあ、コレにしよっと」


 俺は一番大きな定規を手に取った。


「な……なんと。『定規でムフフ』始まって以来の大型でありますか」

「ユガムッチ、お腹出して」

「腹…………で、ありますか?」

「うん、早く出して~」

「……御意であります」


 田中は上着をめくり上げ、腹部を露出させた。パーティー音源用CDに収録されている、ボヨヨ~ンという効果音が聴こえてきそうな、鏡餅級の立派な下っ腹。一体、何を食えばここまで育つのだろうか? 


「移女王たま、仰せのままに……」


 田中は、両手を広げて全てを受け入れた意思を見せる。


 ……ほほぉ、勇ましいじゃないの。なら、新生移女王たまが、その気持ちに応えてやろう。


「じゃあ、一二の三で、いくよ?」

「どんと来いでありま──」


 ビチィ!


「ひぐぅう!」


 ノーカウントで繰り出してやった、定規の『面』によるフルスイングは、田中の下っ腹にジャストミートした。

 田中は「ぐむむむぅぅ~……」と、くの字になって絶賛悶絶中。その下っ腹には定規の跡がくっきりと浮かび上がってきた。


 どうだ? 葛谷遼時代に、暇すぎてバッティングセンターへ通いつめていた頃に磨き上げた、神スイングの味は?


「……ア、アリであります。意識不明の重体から復活を遂げた移女王たまは、以前にも増してトリッキーかつ、パワフルであります。女王たま……おかわりを! であります!」


 おかわり? もしかして俺、コイツの新しい『扉』を開けてしまったのかも知れない。まぁ、いいさ。望むならば与えてしんぜよう!


「欲しがるね~ユガムッチ。んじゃあ」


 ──ベン!


「ふぐお!」


 一発目のやや下辺りに大定規をお見舞い。やや鈍い音がした。う~ん、少し力み過ぎたかな? もう少し脱力した状態で……。


「もう一丁ぉ!」


 ──三発目、バチィイイ!!


「ぎゃむっ!」


 破裂音が鼓膜を波打たせた。これはクリティカル的っしょ! 出血大サービスのフルスイングショット、合計三発を喰らった田中は膝から崩れ落ちた。その下っ腹にはみみず腫れがくっきりと川の字に浮かび上がってきており、かの有名な土佐勤王党、武市瑞山の切腹を彷彿させる光景だった。


「どぉ? ユガムッチ、これで満足?」

「あ……ありがたき幸せであります、移女王たま」


 感無量の田中は、光悦の表情を浮かべて天井を仰ぎ見る。

 少々やり過ぎたとは思ったが、何せ大切なスポンサー様だ、これぐらい刺激的な方が丁度いいだろう。さて、ドMが更に覚醒した田中の調教は済んだ事だし、最後の『賭け』に挑もうじゃないか。


「じゃあ、次のゲームいっきまぁ~す」


 俺は運命のルーレットを回した。来い……来い…………来いっ! と、強く念じながら指先でダーツを引っ張り、矢を投じた。


【滝本移+愛妻優】


 キャハァアアアァン! 

 

 キタキタキタキタァアアアアアアアァァァァアアア!

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