クズその25【生臭い】
ゆっくりと接近してくるキッチョンの唇。
はわわわぁぁああああああ! 緊張で奥歯を噛み砕きそうだ! ダメだ……落ち着け俺。たかがキスじゃねーか、ハハハ。しかも相手は二十歳のガキだぞ? ビビってんじゃねーよ遼。
これは転生する為のクエストの一環だ。甘んじて受け入れろ推しの唇を!
眼前に迫りくるキッチョンの唇が、俺の唇にもうすぐ着岸する──これはあれか? 目を閉じた方がいいタイプなのか? でも恋人同士のキスじゃないし、閉じたら何か変か? どうする? どうする? どぉするぅ? あー、もう訳わか──
「チュリー、目……瞑ってよ」
はい! 瞑ります! いくらでも瞑りますっ! ご希望とあらばこの眼(まなこ)を潰します!
促された俺はソッコーで目を瞑った。その直後、柔らかい物体が俺の唇を優しく覆った──
んん……くふぅ……か……い、か……ん。
人生、苦あれば楽あり──
先人達が言っていた名言に間違いはない。ま、俺の場合は『楽ばかりで餓死』だが。
ファーストキス――
言い伝えによると、それはまるで苺のように甘酸っぱいという。
現時点では、緊張の余り息を止めているので、味も香りわからない。唯一わかるのは、キッチョンの柔らかな唇の感触だけだ。
五秒は経過しただろうか? 小鳥キス程度かと思いきやの、すーちゃん同様の長めのキス。あぁ……この唇を離したくない、ではそろそろ味と香りを堪能させてもらおうじゃないか。ストロベリーキッスとやらの味をなっ!
俺は呼吸の一時停止を解除した────
ん……んん、んん?
臭っ! 何これ、めちゃ臭いんですけど! は? はぁああああぁぁあああ?
生臭い。
衝撃的に生臭い。
吐きそうなくらい生臭い。
いやいやいやいやいやいやいや! ちょっと何でこんなにも臭い訳!? まるで海水浴後の海パンを、鼻に押し付けられているような臭さに、俺は悶絶した。え? 刺身と海藻サラダ食いまくってたから? でもこれは口臭なんてレベルの臭いじゃねーぞ!
キスの最中だが、俺は真相を確認すべく目をそっと開けた。そこにキッチョンの顔はなく、あったのは『魚』の顔だった。
「あははは! どぉ? ユガムッチ。ゆりんゆりんな展開を期待してたみたいだけど、残念でしたぁ~」
キッチョンは田中のスマホに向けてアカンベーを繰り出した。
「……まさか、活け造りの鯛のお頭を女王たまに献上するとは…………アリであります!」
「やるではないか! 可愛の! 『滝本×魚』というレアなコラボが見られて我は満足だぞ!」
ふっ! ざけんじゃねーぞ! 魚ぁ? 魚だとぉ? 何で魚とキスしなきゃならねーんだよ!
「チュリーとあたしの関係性は腐女子仲間だってわかってるでしょ? すーちゃんみたいな百合展開はしませーん。ね、チュリー」
「う……うぅん」
ね、チュリー。じゃねーわ! 興味あるわ! お前の唇、奪ってポイントゲットする予定だったわ! むしろ興味ねーのはBLの方だ!
「では、宴もたけなわ。そろそろお開きにするでありますか」
は? ……マジか? これで終わり? ちょっと待てやぁぁ! ムラムラが止まらねーし、俺はまだまだポイントゲットする気満々だっつーの! このままお開きなんて冗談じゃねーっての!
続行だ。続行以外の選択肢は──ないっ!
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