クズその24【鱚ではなくキス】

 眼前で行われている非日常的な出来事を目の当たりにしたこの瞬間、俺は確信した。

 イケる……これはイケるぞ。この飲み会でキスポイントが稼げる! あわよくば2ポイントゲット出来るかも知れない! 


 キッチョンは長めのキスを終えて唇を離した。その時鳴った、ちゅぴっ……という微かな吸着音が、俺の鼓膜で残響する。


 すーちゃんは赤ら顔を更に紅潮させ、「……んふ、キッチョン相変わらず大胆だね」とつぶやいた。


 既に経験済み! この二人頻繁にキスしてるっぽい!


 そのやり取りに興奮が冷めやらぬ最中、「尊い……で、あります」と、田中がスマホを向けながら光悦の表情を浮かべていた。


「あ~、すーちゃんの唇柔らかかったぁ。ユガムっちぃ、その動画後で送ってね」

「了解であります」

「.……ボクも送ってほしい」


 思わず催促してしまった。


「了解であります。では……続いて二投目いくであります!」


 よし……いくぜ!


 俺は全身全霊を人差し指に込めて、画面をタッチした。


【滝本移+可愛絆】


 しゃあああああああぁぁぁぁぁぁ!


 引いた! キッチョン引いた!


 なんという強運……いやもはや豪運。


「おお! 移女王たまと可愛氏でありますか! これはまた神組合せ。では……プレイングルーレット、スタート! であります!」


 ここでキスを出せば1ポイントゲット……勇者までの道のりへ一歩前進だ。それよりも何よりも推しとキス……夢にまで見た、推しとキスが出来るんだ。今こそ、投げ銭で溶かした金が報われる時! 行け! 引け俺! 推しキス引いたらんかい!


俺は全ての煩悩を人差し指に込めて画面をタッチした。


【17】


「こ……これは、これはもしや……もしやであります!」


 興奮する田中、息を飲む俺。すると、画面に浮かびあがってきたのは──


【キス】


「むはははぁあああ────! なんと! なんいう天変地異! 二回連続の【キス】で、あります!」


 フフフ……フフフフ……ハァーッハッハハァー! 


 なんという引き強! 俺は己の力で引き当てた!


 推しとキス……つまりキッチョンはファーストキスの相手となるのか。なんという数奇! いいや、もはや怪奇!


「……んじゃあ、あたしからチュリーにキスするよ?」


 キッチョンと向かい合うと、彼女は潤んだ瞳で俺を見つめる。その瞬間「ゴクン!」と、生唾を飲み込む音が耳に届いた。俺のではなく田中のだが。田中はハァハァ言いながらスマホのカメラをこちらへ向ける。


 いいさ、好きなだけハァハァしとけばいいさ。但し、絶対に撮り損なうなよ。やらかしたらお前のその腹に……おっと、ダメだダメだ。集中しなければ。


 気持ちを切り替え、俺は視線をキッチョンの唇に移動させた。艶やかでポッテリとしたその唇はとても瑞々しく、まるで熟れた果実のように……って! そんなテンプレ比喩なんてどうでもいい! プルンプルンやん! プルンプルン、プルンプ、ルンプですやん! ヤベーよ、もう噛みつきたいわ~。むしろ食したいわ~。突然変異でカニバリズムが芽生えそうだ。


 そうこうしていると、キッチョンが顔を寄せてきた。


「チュリー、する……よ?」

「……う、うん」


 エロ! 言い方エッロ!


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