クズその18【酒池肉林】

【愛妻優(あいさいすぐる)◆愛称:すーちゃん◆身長155センチ:体重ナイショ♪◆茶髪のハーフツイン◆超童顔◆滝本移、可愛絆と親友であり、三人の中では突っ込み役】


 コ……コイツは大当たりだぜ! 原宿に居そうなガーリールックでコーデされた愛くるしい小柄な女の子に俺は脳内で狂喜乱舞だ。

「す……すーちゃん、立てる?」

 手を差し伸べると、彼女は俺の手をきゅっと掴み、「あはぁ、ありがとー」と満面の笑みを向けた。そしてその手を握ったまま、「タッキーは年中無休で優しいねぇ」と満面の笑みを向けた。

 尊い! 何て尊いんだ! ちっちゃくて柔らかい手……吐血しそうなくらいカワイイじゃないかぁ!

 ファニーフェイスから放たれる、神秘的な激甘ハニースマイルに一目惚れした俺は、すーちゃんを引き起こした。

「おーい、早く着席しないと料理来ちゃうぞー」

 キッチョンが手招きをして俺達を呼んでいる。

 すまないキッチョン、君は推しだし、カワイイし、胸もデカイ。だがしかし、だが……しかしだ。俺は昔から童顔が大好物なのだ。悪く思わないでくれ。と、ハードボイルド風味な心境で、勝手な優先順位をつけながら着席した。

 六人が座れるテーブルに、左からキッチョン、俺、すーちゃんの順に座った。向かいの席に座る鈴木と田中が多少目障りではあるが、こちとら両手に華状態。まぁよしとしよう。

 ん? 何だ? 田中がスマホをこちらへ向けている。直後、カシャカシャカシャカシャカシャカシャ──と、連写音が鳴った。

「……壮観であります」

 壮観であります、じゃねーよコラ! テメー何勝手に写真撮ってんだよ! 突拍子も無い田中のガトリング写メに対して、普段は温厚な俺も怒り心頭になった。

 写メを撮り終えた瞬間、田中は目にも止まらぬフリック操作でスマホをいじりだした。直後、田中を除く四人のスマホからラインの着信音が鳴り響いた。

 スマホをバッグから取り出し、内容を確認すると、今撮影した写メがアップされていた。

 うお! くっそカワイイ! コイツ、中々粋な事してくれるじゃないか。まぁあれだけ連写しといて、一枚しか送信してこないのは腹立たしい限りだけど。

 憤りを覚える俺の右隣で、すーちゃんもスマホを覗き込み、「わぁ、いい感じ~。タッキーやっぱ顔ちっちゃいね~。ゆがむっち、いつもカメラマンありがとー」と笑顔で喜んだ。

 いつも? マジか……コイツらいつもこんなカワイイ子達と飲み会やってんやがるのか? 

 まぁいい。そんな事を妬んだ所で何も始まらない。それよりも、遂に……遂に始まるんだ。俺の仮転生祝賀会……酒池肉林の宴が!


 テーブルに豪華絢爛な料理と酒が並べられ、俺の両隣にはカワイイ女の子が居る。

 ついこの間まで、金は無い、友達も居ない、勿論彼女も居ない。あるのは多額の借金だけという、ド底辺だった俺にとって、これはまさに夢のようなシチュエーションだ。

「じゃあ料理も出揃ったし、乾杯しよっか」

 キッチョンが音頭を取り、皆がビールジョッキを手にした。仕切りたがりの推し、良き。微かにSっ気な口調も生配信同様に良き。何であれ、カワイイから良き。

「え~、ではチュリーの退院を祝しましてぇ、かんぱぁ~い」

「「「「かんぱーい!」」」」

 一時間後──俺は鯛の尾頭付きを筆頭に、色とりどりの刺身が埋め尽くす船盛りなど、豪華な食事を堪能し、酒も浴びるように飲んだ。そして、両隣の我が愛しき女の子、キッチョンとすーちゃんもかなり酔いが回ってきた様子だ。ふっふっふふっ。良き……謀らずとも良き!

「チュリ~、飲んでるかぁ~」

 キッチョンがほぼゼロ距離の密着状態で絡んでくる。

「……うん、飲んでるよ~。キッチョンも顔真っ赤じゃん」

 愉しい。愉しすぎる。画面越しでしか会えなかった推しと、こんな距離でスキンシップ出来るなんて、葛谷遼時代ではありえない事だ。更に──

「ふぇ~……酔っぱらっちゃったよぉ~」

 ……ふふふ。すーちゃんもいい感じに出来上がってきたじゃないか。そのトロ~んとした目が、より一層カワイらしさを倍増させているよ。

「すーちゃん、眠たそうだね。大丈夫?」

「……う~ん、今日はねぇ、タッキーのお祝いだからぁ、楽しくて楽しくて。つい、お酒が進んじゃったぁぁ……」

 そう言うと、すーちゃんは俺の左肩に寄りかかってきた。

 ──ふぐぉ! え? え? ええっ? 右舷にキッチョン、左舷にすーちゃん。そして、中央に……俺。これはもはや美女という名のサンドイッチ……いいやパニーニだ。『具』はクズだけど。

 良かった、餓死して本当に良かった。神様……いや、転生女神ルナ様。俺はあなたに感謝している。少々メン○ラだが構わない。少々自己中だがいっこうに構わない。あなたがヘマをしていなければ、金という対価を支払わずして、両手に美少女という至福の時を楽しむことなどなかったのだから。

 サンクス……ポンコツ女神ルナ。あぁ、本当に幸せだ……。


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