クズその16【ギャルルン】

「ふ……ふぇ~。何か、めっちゃ疲れた」

 まさかデスゲームに強制参加させられるとは……想定外の出来事だった。

 灰色だった景色はいつの間にか元に戻り、人々も動き出した。

「勇者に転生する為には……異世界で成り上がる為には、何が何でも十人の女の子とキス……これを達成せねば」

 強い意思で決意表明したその時、「チュリー、ハロハロ~」と、手を振りながら女の子が近付いてきた。

 うおー! ミヤビじゃん! 生主のミヤビじゃん! 正確には生生ミヤビじゃーん! 

 かき上げ系のワンレン、少しSっぽい雰囲気を醸し出す切れ長の大きな目、健康的な小麦色の肌、課金しまくった推しが目の前に居る──

 くぅううう……餓死してよかった! 疲れも吹っ飛んだぜ!

「あ、え……えっと久しぶり……」

「ん~、元気そうで何より何より何より」

 ……良き、一時間待たせた人間に対して発する第一声が上から目線でも良き。だって、だって画面越しにしか見た事のなかった推しだもん。全部許す。

「てゆ~かさぁ、今日チュリー来るのやたら早くない? いつもあたしより三十分は遅く来るのに」

「……え? あ、あの楽しみで、早めに来ちゃった」

「あー、入院してたからお酒飲む事が待ち遠しかった? チュリーお酒大好きだもんね~」

 沖縄時間……そっか、君達沖縄時間なのね。

「い……いやぁ、あははは」

 ヤベェ……緊張して取り繕うのが精一杯だ。

「そ・れ・と・もぉ~、あたしに会える事が待ち遠しかったとかぁ?」

 移ちゃんよりも背の高いキッチョンが、エロイ目付きで見下ろしてくる。うおおぉぉ! 高身長女子、最高!

「……う、うん。会いたかった、ボク(俺も)も会いたかったよミ……キッチョン」

 緊張感よりも、いかがわしい感情が芽生え始めてきたその瞬間、「わっ──⁉」と、俺は思わず声を上げた。なんと、キッチョンが抱きついてきたのだ。そして「……チュリー、退院おめでと。本当に、本当に無事で良かったよ」と、耳元で囁いてきた。


「あ……ありがと、キ……キット……キッチョン」

 突然のハグに危うく『キットン』と噛む所だった。

 いやいやそんな事はもうどーでもいい。はわわわぁぁぁ……何コレ~? めっちゃいい匂いするんですけどぉ。香水……? シャンプー? それにすんげぇ柔らかいし、なんか生暖かいんですけどぉ…………ぉぉおおお! ぷるんぷるんだ。生生推し、ぷるんぷるん!

「んじゃチュリー、先に入ろっか。もう少しでみんな集まると思うから」

「……う、うん」

 嗚呼……課金し続けてきてよかった。

 黒ギャル最高!


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