クズその14【ゴブリンか勇者か①】
「こんにちわ~♪ ルナでぇ~す。何かこの登場の仕方、あんまし好きじゃないんだよね~。いかにも女神ーって演出でさ、遼くんもそう思わない?」
「……いや、あの。何か用ですか?」
「ちょいちょいちょ~い! やだなぁ、もぉ。女神会議で結論が出たから報告に来たんじゃ~ん」
女子高生のようなとてつもなく軽いノリで、女神ルナは俺のみぞおち辺りに右肘をグリグリと押し付けてくる。
いやいや、報告って……今じゃねーだろ! 俺はこれから人生初の女子大生との飲み会に参加するんだよ!
「……あの、これから用事あるんですけど。報告に来るタイミングおかしくないですか?」
「はぁ?」
女神ルナは眉間にシワを寄せ、
「何言ってんの? 何であたしがそっちの都合に合わせて、来なきゃならない訳? 意味わかんないんですけどぉ。大体、遼くん自分の立場理解してないよね? 君はあくまでも移ちゃんの中で転生を待機してるだけの仮転生だかんね。この際はっきり言っておくけど、昨今の転生ブームで、あたし達女神は超多忙なの! 次から次へ転生させなきゃ廻らない訳! そんな過密スケジュールの隙間を縫ってわざわざ報告に来てあげてるのよ? 感謝されてもタイミングがどーのこーの文句つけられる筋合いはないよ! お分かり? フンッ!」
ええぇ~……滅茶苦茶ブチ切れてるじゃん。何ならちょっと泣けてくるぐらいブチ切れられたじゃん。自分がヘマしてこうなったという揺るぎない事実など無かったかのように、完全論破顔で俺を見下してるじゃん。
これ以上、何か言うと更なる激しい『口撃』が始まりそうなので、俺は「じゃあ……報告をお願いします」と素直に聞くことにした。
「オッケー。じゃあ女神会議で決まった、転生コースの内容を説明するねっ。まずは、【勇者コース】。これは、君が移ちゃんと入れ替わるコースだよ」
「ん……? 入れ替わる……コース? そっ! それって、俺がチートでイケメンの勇者に転生出来るって事っすか? じゃあそれで!」
マジかマジかマジかっ! それなら万々歳だぜ! シャーッ! ゴブリンから一気に成り上がり確定! 勇者コース最高!
「うおおぉい! まだ説明の途中でしょうが! 人の話を聞けっ! 全く……このクズは。あのね、君が狂乱歓喜する【勇者コース】は条件付きなの。君さ、生前思い残した事無い?」
「思い残した事? なんすかそれ?」
「なんすかそれ? じゃねーわ! お前の心残りだろうが! 知るか!」
「……す、すいません。今、思い出してみます」
心残り? はて? そんなのあったっけか? 夢も希望も無い俺に心残り……はっ!
「もしかして、あれかも。キ……キス、死ぬ前にせめて女の子とキスしたいって願いですかね?」
「あー、多分それね。その叶う訳が無い心残りっ……ていうか、ある意味執念? 雑念? 怨念? よく分かんない強いエネルギーが、転生の邪魔しちゃってるのよ」
「……怨念って酷くないすか。あの、全然理解出来ないんすけど。もう少しわかりやすく説明を……」
「だからぁ! 転生したい気持ちよりも、女の子とキスしたい気持ちが上回ってんの! 移ちゃんと入れ替わってイケメンチート勇者に転生したければ、【女の子とキスをする】というミッションをクリアしなきゃならないの! わかった?」
「……あ。はい。なんかもう、すいません」
ああ、こんな風に女神ルナにかなり強めな口調で一方的な説明を捲し立てられていると、去年マッチングアプリで美人局に引っ掛かった際、丸坊主のレスラーみたいな半グレの輩に慰謝料として財布ごと徴収されたのを思い出すなぁ……あの時は本当に怖かった。少し……いや、ジーパンの色が変わるぐらい漏らしたもんな。フッ……今となっては懐かしきだが。
あの時の半グレ輩ばりに『輩化』した女神ルナは、「……じゃ、理解したって事で次、【ゴブリンコース】の説明をするねっ♪」と、再び態度を豹変させた。
んん? 今なんと?
「この【ゴブリンコース】は単純明快、ゴブリンに転生でぇ~す」
「……は? それってまだ有効なんすか?」
「当たり前じゃん」
ちょっと待て、満面の笑顔でサラッと何言ってんだ、このポンコツ女神は?
再び女神ルナの口から発せられたゴブリン転生という完全無欠のオワコンワードに、俺は未だかつて体感した事のないガクブルに陥った。
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