クズその12【ライバー】

「……はい」

『あ、チュリー?』

 ん? チュリーって移の事か?

「う、うん……」

『たーいんおめでとー!』

「ど……どうも」

『あれぇ? なんかチュリーさぁ、よそよそしくない? どしたの? まだ全快じゃない的な?』

 ……なんか、この子言い回しのクセが強いな。

 このままでは会話が成り立たないので、俺は『キッチョン』とやらに関するデータを視覚ウインドに表示させた。


 ピロン♪


【可愛絆(かわいきずな)◆愛称:キッチョン◆年齢二十歳◆身長一七五センチ◆体重ナイショ◆巨乳、かつグラマー◆スリーサイズ九五・六十・九十◆滝本移の事を呼称した際、『うちゅり』と噛んでしまった事がきっかけで、チュリーと呼ぶ事になった】


『もぉーしもぉ~し、チュリー聞こえてる?』

「……あ、うん。ゴメンゴメン。ボク、まだ本調子じゃなくって。電話ありがとね、キッチョン」

 フゥ……さっき移が『ボクっ子』だという設定を調べておいて良かった。

『そっか~。じゃあさ、サークルの皆で飲みにいこーよ! チュリーの快気祝いって事で!』

 おいおい……本調子じゃないって今言ったよね? 快気祝いの意味全く理解してないよね?

「……う、う~ん。いいよ」

『んじゃあ、夜七時にいつもの店で待ち合わせって事で! 皆にもLINE送っとくね~』

 可愛絆はそう告げると、一方的に電話を切った。

「……ちょ、今日?」

 マジか……普通、退院してきたばかりの友達を酒の席に誘う? こちらの都合などお構い無し……ま、それでも行くけどさ。

 何にせよ、まずは彼女の事をもっと知る必要がある。俺はスマホを開いて画像を確認した。

 ──数分後、衝撃的な事実を知り、激しく身悶えた。

 ああ……あああ……ああああああぁぁ! 嘘だろ嘘だろ嘘だろっ? ミヤビ……この子、ミヤビじゃん!

 説明しよう。ミヤビとは生配信サイトの『ライバー』であり、俺の『推し』である。

 この子に沼った俺は、承認欲求を満たしたいが為に、応援という名の投げ銭をしまくって数十万円の金を溶かしたという過去がある。

 そんな、そんな推しのミヤビが移の親友だったとは。なんて……なんて尊い展開なんだ!

 確かに、この子は俺が餓死する事になった原因の一端ではある。しかし、恨みなど一切無い! あるはずも無い! むしろ幸運! 何故ならば、今こそ投げ銭しまくった見返りをペイするチャンスだからだ!

 仮転生とはいえ、滝本移としての時間はもう動き出している。引きこもっていても何も変わらない。この期間に出来る事を精一杯やらなければ。

 俺は気持ちを切り替え、浮寝を終えて缶チューハイを一気に飲み干した。


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