クズその11【浮く】

 昼過ぎまで寝ていた俺は、ベッドで横になったまま視覚ウインドを開いて、移ちゃんに関する情報を閲覧していた。

「……しかし、カワイイと色んな事で得するんだなぁ」

 そう、『カワイイ』というただそれだけの理由で、タクシー代が無料になり、ビールをサービスしてもらえたのだ。

 葛谷遼時代に俺が無料で貰えたモノと言えば、街角で配られるポケットティッシュぐらいだった。まぁ、ラーメンに沈んでいた豚カツには参ったけれど。

「……あ。豚カツはサービスって言うよりも、魔法クジの力になるのか。そういえば……今日はまだ引いてなかったっけ」

 おもむろにリビングへ移動し、ダイニングテーブルの中央に鎮座するロボピーの前に立った。

「しかしコレ……めっちゃ邪魔だな。意外と場所は取るし、なんか必要以上に重いし。そもそもテーブルで食事出来ないし」

 ま、そんな文句を言った所で……ね。さて、今日の魔法をゲットしますか。

 俺はロボピーの頭を押した。


 ピロ、ピロピーロ、ピロピーロピー、ピッピッピッピ♪ 


 機械音が奏でる妙なリズムは、どうやら毎回違うらしい。もしかしたらリズムのパターンによって、魔法の内容が違うのかもしれない。この事については今後解析していこうと思う。


 ティントン♪


「さて……どんな魔法が当たったのかな。今度は良いのを頼むぞ」


 スマホのアプリを起動させ、魔法を確認した。


【魔法:一センチだけ空中に浮ける】


「……は? 一センチだけ浮いてどうするんだ? もしやこの魔法ガチャ……ポンコツ能力しか出ないんじゃねーのか?」

 魔法アプリに猜疑心を抱き始めたものの、一応ダウンロードしてみた。使用方法も確認しとくか。


【『浮け』と指令を出せば、身体が一センチ浮き上がります。※移動する事は出来ません。※使用期限:二十四時間 ※期限内なら何回でも使用出来ます。】


「……あっそ。じゃあ、『浮け』」

 そう言うと、本当に身体が僅かに浮いた。

「……お。結構な浮遊感だな。意外とコレ、いいかも」

 部屋に居ながらにして無重力を体感しているようだ。これで移動が出来たのなら、某有名ロボットアニメのスペースコロニー内移動ごっこが出来ただろうに残念だ。

 一旦着地し、床に寝そべり仰向けになってみた。

「これでよしと……『浮け』」

 おー浮いた、浮いたわー。おほ……おほほほ。これはいいんじゃね? イッツ・ア・ゼログラビティターイム。浮遊感がだんだんクセになってきたなぁ。んじゃま、『寝浮き』したままスマホでエロサイトサーフィンでもするか。


 スマホを持ったその瞬間、ピリリリ────と着信音が鳴った。


「おお……ビビったぁ。一瞬身体が浮くかと思ったわ。浮いてるけど。全く……」


 画面には【キッチョン】と表示されている。

 誰だ? 友達か? とりあえず電話に出てみた。

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