クズその7【プレゼント】
都内の一等地に聳え立つタワーマンションを見上げながら、俺は思わず「す……すご」と呟いた。
暫し呆然としたが、気を取り直して大理石が敷き詰められたエントランスを通り抜け、顔認識のオートロックを解除。滝本移宅があるという三十階までエレベーターで昇った。
「ほほほぅ……これはこれは凄いじゃないか」
最初は気後れしたものの、タワーマンションの雰囲気に少しづつ慣れてきた。
パノラマな窓から東京の景色が一望出来る、だだっぴろいリビングに入ると、俺は思わず感心の声を上げた。そして、クイーンサイズのベッドが鎮座する寝室、めちゃくちゃ広い風呂に、無駄に豪華なトイレなどを見て回った。
どの部屋も普段からキチンと片付けをしている様子で、ゴミ一つなく、微かにアロマディフューザーのいい香りが漂っている。
これが、資本主義が生み出した格差社会の高みなのか……などと妙に感心しながら散策していると、廊下の奥に部屋があることに気付いた。
「な……何だココ……まだ見てないよな」
ドアを開けて中に入ると、そこは一目見ただけで分かるほどヲタ部屋化している洋室だった。
全体のゆるふわな雰囲気からして移ちゃんの部屋に間違いないだろう。
クローゼットに丁寧に収められたコスプレ衣装の中に猫耳カチューシャを見つけ、おもむろに頭に装着してみた。そして、壁面に取りつけられている全身鏡の前に立ち──
「にゃおん♪」「うにゃん♪」「うにゃにゃにゃにゃあ~ん♪」と、両手を丸めて招き猫ポーズを炸裂させてみた。
「……カ、カワイすぎる」
尊い……尊すぎてもはや溶ける。仮に、このポージングを葛谷遼で再現したら、猛烈な吐き気に見舞われる事、必至。
ひとしきりあらゆるポージングを決め、移ちゃんのカワイさを堪能した俺は、クローゼットに猫耳カチューシャを戻して、改めて部屋を見渡した。窓際のチェストの上に滝本移と妹の縁ちゃん、そして両親が映った家族写真を見つけた。
写真の中の移は今より幼い感じがする。中学生……? いや、高校生くらいか。場所は明らかに日本ではない海外のどこかだ。
家族が一緒とはいえ、高校生にして海外旅行とは、裕福極まりないなぁ。あ、そう言えば視覚データに滝本移の両親は都内に複数のビルやマンションを所有していて、その家賃収入で得ている不労所得は半端ない金額だって書いてあったっけ。このマンションも両親の所有する物件らしいし。つまり、移は相当なお嬢様って訳だ。そりゃあ海外旅行にも行けるし、こんな趣味全開、贅沢三昧の大学生活を送れるよな……。
まぁいいさ。何せこの好環境にとりあえず身を置けるのだから。
「現時点では勝ち組だしね……ふふん」
謎の優越感に浸りながら、生まれて初めて入った女子の部屋を一通り物色……いいや、確認した所で一息つこうと、リビングに備え付けられているダイニングテーブルのチェアに座った。
「……ふぅ。ん? んん? 何だコレ」
テーブルの中央に赤いリボンで装飾された、いかにも『プレゼントっす』的な箱が置いてある。
部屋に入った時、こんな箱あったっけ? という疑問を抱きつつも、大体の推測がついている俺は、何の躊躇もなくリボンをほどいて、中身を確認した。
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