クズその3【仮転生】
「……あ~、笑った笑った~。でね、手違いの件に戻るけどぉ、遼くんと同日、同時刻に交通事故で死んじゃった女の子がいてね。その子も君と同じ、チートなイケメン勇者に転生希望だったの。で、その子……滝本移(たきもとうつり)ちゃんは『勇者クロード』として、異世界に転生しましたぁ! パチパチパチ~♪」
女神ルナはとびきりの笑顔で拍手する。
おいおい、何言ってんだコイツ。そもそも女神って、転生した後に出てきて世界観の説明したり、スキル与えたりするんじゃないのかよ? 一体全体、何なんだよこの展開は。
「……はぁ。その子と俺のゴブリン転生に何の関係が? 単なる自慢話ならもう聞きたくないんすけど」
「だからぁ、話は最後まで聞きなよ。まだ話してる途中でしょ! そんなだから君は餓死なんてするのよ!」
女神ルナのかなり強めの逆ギレが炸裂。
てゆーか、さっきからずっと俺、ボロカスにディスられてね? 自分が招いた怠惰が原因で餓死したとしても、少しぐらい哀れんでくれてもよくね?
「実は~、移ちゃん、まだ完全に死んでなかったのよね~」
「は? 死んで……ない? でも今転生したって」
「それがさぁ。移ちゃん、お医者さんに脳死って判定された訳よ。そうなると、一応『死』じゃん? だから転生させたんだけどさ。そしたら、上司の女神に、『肉体が生きている状態で転生させるなんて何を考えてるの!』って怒られちゃって~。脳死は転生させちゃダメなんだって! 死は死なのにさぁ」
なるほど。つまり、早とちりをしたって事か。俺の事を散々馬鹿にしてたけど、コイツも相当なポンコツ女神じゃねーかよ。って……あれ?
「あ……あの、もしかして、この子がその滝本移ちゃん?」
俺は自分の身体を指さし尋ねた。
女神ルナは「ご名答! テヘ♪」と、自分の頭をコツンと叩き、舌をペロッと出した。この状況でテヘペロ、まさかのテヘペロ。
「とりあえず、君には移ちゃんの肉体を保持する名目で、彼女の身体に『仮転生』してもらってる状態ね。いや~、しかしラッキーだったよぉ。同じ時間に君が死んでくれてなかったら、今頃大量の始末書を泣きながら書いてる所だったもん。遼くん、ありがと」
「仮……転生? は? は? はぁあああああああ?」
「だってぇ、このままだと魂が抜けた移ちゃんの身体も腐ってきちゃうんだもん。ちなみに、君の身体は既に腐り始めてるけどね」
俺の身体、腐ってるんだ。
どうやら、俺の亡骸はまだボロアパートで誰にも発見されず横たわっているらしい。少しだけゾッし、少しだけ切なくなった。
「まぁ、とりあえず、とりあえずだよん♪ 君と移ちゃんの今後については、現在『女神委員会』が会議開いてるから、決議次第報告に来るね。てゆーかぁ、こんな事例、数万人に一人あるかないかの奇跡的な事だし、暫くの間、乙女ライフを楽しんじゃいなよ~」
「マ……マジか。そんな……そんな事って。ありえない……ありえない」
「え~何々? なんか不満ありげじゃね? よ~く考えてみなよ。本来なら君は既にゴブリンなんだからね? もしかしたら転生した瞬間に激強モンク辺りと遭遇して、ワンパンでやられちゃってたかも知れないんだよ? なら、勇者ではないにしろ、とりあえずカワイイ女の子に仮転生出来たんだから、ある意味ヘマしたあたしに感謝してもらいたい所だよ。まぁ、それでも納得出来ないって言うなら、転生の件自体が無効になって、君は――」
「――いいんすか? こんなカワイイ女の子になっちゃってていいんすか?」
「……は?」
「いやだって、俺ド底辺のクズ人間だったんすよ? それをこんなにもカワイイ女の子の中で転生待ちが出来るなんて超ラッキーじゃん! やほーい! やほほーい!」
「あ……そ。話が早くて助かるわ。じゃあ、【仮転生したあなたへ】っていうマニュアルを、移ちゃんのスマホに送信しといたから確認しといて。んじゃあ、会議で結論が出たらまた来るからさ。じゃあね~」
そう告げた後、女神ルナは神々しい光の中へ帰っていった。
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