第9話 百合回? 百合回かも。
埼玉県某市。
およそ東京ドーム20個分の広さを誇るお嬢様学校の朝が、今日もはじまる。
「ごきげんよう」
庶民が一生口にしないような挨拶を平然と交わす女子生徒たち。
純白の制服を身に纏い、髪を染めている者や、スカートを短くしている者など誰もいない。
女の花園、上級国民キッズ園、産まれる前から勝ち組女子パーク。
そんな彼女たちの羨望を集める、スクールカースト最上位にいるのが、松平駿河であった。
「松平さん、ごきげんよう」
「きゃーっ!! 松平様よ!!」
「あぁ、今日もなんてお美しいの」
「この前の配信も最高でしたわ」
「ど、どうしましょう。私の視界に松平様が入ってくださいましたわっ!!」
「私も駿河様とダンジョンへ行きたいですわ」
飛び交う黄色い声援を軽くあしらい、教室に入る。
着席するなり、本を読む。
そう、着席して即読書なのだ。
本が好きだからではない。友達が……いないのだ……。
お昼休み、駿河は屋上でひとりお弁当を食べていた。
学校の人気者なのに、駿河には友人がいない。
高嶺の花すぎてみんなマトモに話しかけてくれない。
同級生らしい会話をしてくれないのだ。みんなどこか壁を作っている。
それに、そもそも駿河自身、あまり人に話しかけるのは得意ではなかった。
仮に会話しても、恐れ多く感じてしまうのだろう。みんな早々に立ち去ってしまう。
一周回っていじめである。
ちやほやしてくる相手より、対等な立場の相手が欲しい。
「はぁ」
お昼ごはん唯一の楽しみといえば、屋上から見える超巨大プール。
カバやワニ、その他淡水魚たちが生息するクソデカプールを眺めているときだけが、駿河の癒やしであった。
「カバは毎日元気ね。ふふふ」
駿河の学校生活は寂寥感に満ちていた。
「あの〜」
誰かが話しかけてくる。
別のクラスの女の子、蔵前ルルナだった。
駿河は口に含んだ卵焼きを急いで飲み込み、なにか? と返事をした。
「松平さんが、アポカリプスの魔女なんだよね?」
「えぇ」
「く、黒猫黒子ちゃんと面識があるんだよね??」
どことなくルルナの息が荒い。
「あるけど」
「あ、会わせてもらうことって、できますか!?」
ルルナがグイグイっと顔を近づけてくる。
めちゃめちゃ鬱陶しい。
話しかけてきたかと思えば黒子の話題か。と駿河は若干落胆した。
「会いたいって、ファンかなにか?」
「はい!! 推しなのです!! 一目見た、あのときから……」
黒子が人気なのは駿河も知っていた。
視聴者の中にも黒子目当ての人がいるから。
別に嫉妬などしていない。
駿河も、黒子が愛らしい生命体であると認識しているからだ。
「会いたいと言っても、私だって自由に会えるわけじゃないわ。あの子、普段は株やらFXで忙しいらしいし」
「しょ、しょんな〜」
「でも、そうね、もし会わせる機会があれば」
「やったーーっ!! ありがとう駿河さん!!」
箸を持った手を強引に握られ、ぶんぶんと上下される。
ファンなのは理解できるが、どうしてそこまで喜べるのか、駿河には理解できなかった。
「それにしても、駿河さんってひとりでご飯食べるタイプなんだね」
「……」
「さすが孤高の優等生だね☆」
「……」
念の為補足しておくと、ルルナは駿河を煽ったつもりはない。
無自覚な邪悪である。
「じゃ、またね!!」
スキップしながらルルナは去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、駿河は誓う。
絶対に会わせてやらない。
「ふん。別に、約束したわけじゃないし」
お弁当を完食し、箸をしまって空を見上げる。
澄み切った青い空。
なんとなく、黒子の笑顔を連想する。
会いたいと言えば、ダンジョン外でも会えるのだろうか。
広場たちの『ボス』についても話し合いたいし、今日とか……。
駿河は人生初の友人に、ドキドキしながらメッセージを送った。
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