第4話 またミーツしちゃったガール

「な、なにしてるのよ」


「あの、いろいろありまして。あなたこそ、どうしてここに?」


「ダンジョン攻略に決まってるでしょ。AAランク冒険者になったから、これまで行けなかった15階層に挑むことにしたのよ」


「なるほろー」


「ていうか、すでにピンチな気がするんだけど」


「あ、ちょうどいいです。そこのモンスターを引き付けておいてください」


「はあ!?」


「治療しないといけないので」


 そういうなり、黒子は特製の火傷治しのクリームを鎌瀬太郎の全身に塗り始めた。

 確かに、この状況を放置するわけにもいかず、駿河はわけもわからないまま2本の刀を抜いて、ライオンの形をした炎のモンスターに立ち向かった。


「なんなのよ、まったく」


 炎が形となっている稀有なパターンのモンスター。

 昨日戦った巨大スライムと状況は似ている。


 こちらの物理攻撃は、一才通用しない。


 されど駿河とて凄腕の冒険者。

 まったく策がないわけでもない。


「この手のタイプ、どこかにコアがあるはず。けど、おそらくあの炎の体の内部にある。容易に近づけないし、砂まみれで走りづらいわね」


・がんばれアポ魔女


・急展開すぎて草


・黒子はなにしてるの?


・黒子どうにかしてくれー


 モンスターの火炎放射を、駿河は必死に回避していく。


「くっ、このモンスター、Sクラスの強さね。ザコばかりだと思って油断していたわ。どうにかして近づかないと」


 倒せないこともないだろうが、長期戦になりそうだ。たかが5階層如きで疲労を溜めるわけにはいかない。


「よし、治療完了!!」


「あ、あなた、まさか逃げたりしないでしょうね」


「しませんよそんなこと。じゃ、倒しちゃいますか。フレイムガンも回収したいですし」


「簡単に言ってくれるじゃない」


「あなたが来てくれて、勝機が見えました」


 そういうなり、黒子は落ちていたツタを拾い上げた。

 先ほど燃えたモンスターのものだ。

 黒く焦げてしまって、少し力を込めるだけでボロボロに崩れてしまいそうであった。


「これに、私特製の火傷治しを」


 近づけた瞬間、両者が発光し、


・きた


・アイテム生産


・生産か?


・うおおおお


 一本の鞭が生産された。


「耐熱性の鞭です。これでコアを取り出します」


 確かに鞭であれば、わざわざ炎に飛び込む必要はない。


 黒子は鞭をモンスターの腹部へ打つと、力強く引っ張った。

 鞭の先端にオレンジ色の球体が括り付けられている。

 あれこそがコアである。


「破壊しちゃってください!!」


「え、あ、了解」


 炎を纏っていないのであれば恐るるに足らず。

 駿河がコアを切り裂くと、炎のモンスターは一瞬にして消滅した。


「ふぅ、やりましたね」


「えぇ」


 一刀両断されたコアが、真っ二つに切られたフレイムガンへと戻っていく。


 また砂に引き摺り込まれる前に、黒子はササっと回収してリュックに詰め込んだ。


「はあ、壊れたものは直せないのに……。それにしても、はは、お強いんですね〜」


「まあ、AAランク冒険者だから」


「助かりました。お礼にポーションを差し上げます」


「あ、ありがとう」


「ではここで。私は、救助隊の人がくるまで、あそこの男性に付き添ってますから」


「え!?」


「はい?」


「い、いやべつに」


 確かに、もうここには用はない。

 だがそれにしたって、ドライすぎやしないか。

 もっとこう、どうしてこうなったのか説明したり、休憩したりあるはずだ。


 散々手伝わせておいて、失礼なやつ。


 駿河は若干の苛立ちを胸に、上へと目指して歩き出した。


 それにしても、やはりあの黒子とかいう女、極端に強くはない。

 しかし、どんな状況にも対応できる力がある。

 必要な素材さえあれば簡単に困難を突破できるのだ。

 まさに、なんでもあり。


 なにが起こるかわからないダンジョン攻略において必要な強かさだ。


「なんなのかしら、あいつ……」


 まったく未知数な黒子の存在が、駿河の脳を支配していた。


ー---------------------------


 数十分後。

 先ほどまで炎のモンスターがいたフロアにて。


「い、いない。誰もいない!! ぬわあああん!!」


 蔵前ルルナが悔し涙を流しながら絶叫していた。

 駿河の配信に偶然現れた黒猫黒子を目撃し、急いで会いに来たのだ。


 しかし恐ろしいまでの行動力も虚しく、黒子はとっくに救助隊に太郎を任せ、帰宅していたのだった。


「会いたいよ黒猫ちゃーん!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る