第3話 ボーイもミーツ

 鎌瀬太郎は焦っていた。

 配信業を始めて4年。いまやブームとなっているダンジョン配信を続けてもチャンネル登録者数はたったの16人。


 生配信で20人来てくれたら御の字という体たらくっぷりに。


 ここは、一つドカンと高難易度ダンジョンをクリアするしかない。


 狙いは埼玉県浦和区の某所に出現したAランクダンジョン。

 ピラミッド型の建造物で、中は迷宮となっているらしい。


 通称『ネフェルトゥム』。


 冒険者ランクCの彼は5階層までしか登れないが、それでも到達すれば箔がつく。


「ひひ、やってやるぜえ!!」


 と意気込んでいたのがつい2時間前。

 現在の彼といえば、


「ひえぇ!!」


 分不相応なダンジョンにすっかりビビり散らかしていた。

 5階フロアまでは登れたものの、ツタを束ねたような植物のモンスターに苦戦しているのだ。


 なにより、足場が悪い。

 まるで砂漠の上を歩いているかのように砂まみれだ。

 走ることすら困難であった。


 せめて応援コメントでもあれば頑張れるのだが、悲しいかな、過疎りまくってて応援コメントなど書き込まれていないのだった。


「くっ、くそ……。土属性モンスターばっかりかと思ったら、植物属性モンスターまみれじゃねえか!!」


 自慢の水系魔法のスキルも、これでは形なしである。


「も、もうダメだあ」


 などと諦めたそのとき、


「おおおおお待たせしましたーーっ!!」


 電動キックボードに乗った黒子が現れたのだった。

 ちなみにキックボードは宙に浮いているので、砂地でも問題なしッ!!


「お、おせーぞ!!」


「いやー、はは、すみません。はい、ご注文のフレイムガンです!!」


 黒子がリュックからオレンジ色のおもちゃの銃を取り出した。

 炎系の魔力石とモデルガンを組み合わせて生産した攻撃アイテムである。


 このダンジョンのモンスターが植物族ばかりだとわかり、太郎が注文しておいたのだ。


「代金はクレジットカードで支払い済みですので、サインだけいただけますか?」


「あ、あとでいいだろ!!」


「それと、こちらはレンタル商品ですので……」


「うるせえ!! 貸せよ!!」


 太郎はフレイムガンを強引に奪うと、ツタを束ねた人型のモンスターへ向けて、火炎弾を発射した。


 たった一撃でモンスターは焼かれ、燃えカスがポロポロと落ちていく。


「はっ!! ザマァみやがれ。俺はもう帰るぜ。Cランク冒険者はもう上がれねえからな。どのみち視聴者も……ちっ、たったの5人かよ。靴にも砂が入って、最悪だぜこのダンジョンはよ!!」


「あの、サインと返却を……」


「ふん。ほらよ」


 無愛想に、太郎はフレイムガンを投げ渡した。


「ちょっ!?」


 キャッチし損ねた黒子が、ガンを落としてしまう。


「お前がもっと早く来てれば、こんな目に遭わずにすんだのによ!!」


 完全に逆恨みである。


「なにするんですか!!」


 慌てて拾おうとした途端、フレイムガンはまるで引き摺り込まれるように砂の中へ消えてしまった。


「ああマズイ!!」


「は?」


「このダンジョンは、生きてるんです!! 落ちた養分を取り込んでーー」


 瞬間、砂の中からオレンジ色の球体が飛び出してきた。

 球体は全方向に強烈な炎を放射して、


「モンスターを生み出すんです!!」


 巨大な四足歩行の、ライオンのような炎のモンスターへと変化したのだ。


「な、き、聞いてねえぞ!!」


「もう、私の商売道具が!! どうしてくれるんですか!!」


「し、知らねえよ!!」


 言い争いをしている間に、炎の巨ライオンが太郎に向けて火を吹いた。


「ぎゃああああ!!!!」


「依頼者さん!?」


 全身を炎に包まれた太郎は真っ黒になって焦げてしまって、そのまま気を失ってしまう。

 水系魔法のスキルを持っているのに、使う間もなくノックダウンである。


「えぇ〜、もう、まったく。えーっと、たしか火傷治しがあったはず。あぁんもう!! これもあとで請求しますからね!!」


 リュックを漁っていると、モンスターが黒子を睨む。

 次の標的にされたのだ。


「や、やっばーい」


 思わず苦笑したそのとき、


「ふぅ、15階層まであと3分の2、結構長いわね」


 なんと、


「あ、昨日の」


「え……あ、あなた!!」


 長い紺色の髪。

 凛とした顔つき。

 アポカリプスの魔女こと、松平駿河が現れたのである。

 当然配信しているので、


・え


・でた!!


・デリ女


・マジで!?


・なにしてんの?


 黒子が突然登場したことにより、コメント欄は一気に盛り上がったのだった。

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