騎乗戦
「おお、タザキ! こんな所で会うとは奇遇だな! 危ないから離れているんだ!」
「ええっ!? そんな奇遇ってある?」
「旧世界の遺跡が〝流れ着いて〟きた時、他の
「てことは、ミアの宿敵って……」
「いや、ここにはいなかった! 惹かれあっていたのは、我らだったのやもしれんな! はっはっは!!!」
「こんな時なのにめっちゃ爽やかだな!」
ミアは高らかに声を上げた。
強く、鮮やかに、しなやかに。
豪腕を唸らせる。
ミアは飛び跳ね、四肢を自在に操り、狂った機械達を次々となぎ倒していった。
「すごすぎだろ。戦車の装甲が……ダンボールみたいだ」
俺はその迫力に、勢いに。
ひたすらに圧倒されていた。
ただミアの勇姿を見詰めていた。
同時に悔しさがこみ上げる。
俺は、俺の強さに……多少の自信を持っていた。
旧世界の技術で作られたナイフは何でも切れるし、手に入れたばかりの
だが俺は、まだまだ未熟だった。
判断力、観察力、対応力、回復力……。
どれを取っても俺の実力を超えている。
ゲームで例えるなら、対NPC戦とプロ級の対人戦くらいに違うのだ。
そしてミアは、その
俺とミアとでは、大人と子どもほどの力量差があるのだ。
「おや、どうしたんだい? 何やら打ちひしがれている様子だね?」
珍しいこともあるものだ。
ポルカが俺を気遣っている。
あるいは、立ち尽くす俺がよほど心配になったのだろうか。
「……もっと強くなりたいと思った」
「それは何故かな?」
「二度もミアに助けられてしまった。ミアが来なければ、俺は死んでたよな。こんなんじゃ、冒険なんてできっこないだろ」
「やれやれ。そんなことで悩んでいたのか。仕方がないなあ」
「そんなことって……。めっちゃ重要なことだろ!」
「いいかい、タザキ。落ちついて聞いてくれ。僕はここから切り抜ける奥の手をいくつか持っていた。でも途中でミアが来るのを検知していた。だから僕はミアが戦った方が良いと判断したまでさ。君は何も悪くない」
クレイジーでサイコな猫型ロボットは、相変わらず他人を道具みたいに考えているようだ。
全く、ドライすぎて嫌になるな。
「そういう問題じゃないんだ。俺は、俺がこのタイミングで戦えないことに嫌気が差しているんだ」
未だにこの世界を前向きに冒険する気にはなれない。
さっさと元の時間軸に戻って、ラーメンとか食いたい。
……と言うのが正直なところだ。
それでも。
誰かに頼りっぱなしで冒険をするというのは、あまりにも気持ちが悪い。
だから俺は、強くなりたいと願ったのだ。
「焦る気持ちは分かる。だったらなおさら、ミアの戦いを見ておくことだね」
「どういう意味だ?」
「
「武器の、挙動……?」
「――はああっ!」
ミアは鉄の塊のような槍を軽々と振り回し、屍の山を築いている。
まだ一分も経っていないのに、ほとんど壊滅状態だ。
俺の時とは違い、攻撃を受けた機械達は一撃で動きを止めている。
「どうだい? 何かわかったかい?」
「ほぼ一撃で仕留めている。……あの槍――〝
「ミアが戦士としてずば抜けて強いというのもあるけど、あの槍の力は絶大だ。
あの槍が敵に触れた瞬間に、
「え、まじか。てことは、あの槍は……物理攻撃と同時にプログラム消去――クラッキングをしてるのか? 一瞬のうちに? そんな武器ってあるか?」
クラッキングと言えば、ネットワークから侵入したり、USBポートとかにパソコンを繋いで侵入するイメージがある。
機械に触れた瞬間にプログラムを消すって、どういう技術なんだ?
「戸惑うのも分かるよ。でもあの〝
「うおお、旧世界の技術……凄すぎだろ。というか、そんなに凄い技術がありながら、どうして世界は崩壊したんだ?」
「逆だよ。旧世界の人類は、そんなものを作らなければならないほどに
そこから先、ポルカは何か重要なことを言った気がする。
が、まったく覚えていない。
意識がそこで途切れてしまったのだ。
ミアが弾き飛ばした機械の破片が、俺の頭にぶつかったのだ。
* * *
ガガガガガッ!
ドドドドドッ!!!
全身にド派手な振動が加わり、目を覚ました。
体の自由が全く利かない。
俺は何かに縛りつけられているみたいだ。
どうにか目を開き、頭を動かす。
「……ん? これは……馬?」
「半分正解だ。私が手懐けた
頭上からミアの声がして、俺は自分が置かれた状況を理解した。
俺は
そしてミアは、俺に跨がるように雄々しく立っていた。
つまり下から順番で言うと、馬→俺→ミア という感じだ。
いや、もっとありのままに白状しよう。
えっちなビキニアーマーを装備したミアが馬に跨がっていて、ミアの尻が俺の顔面に迫っていたのだ。
「ちょっ……ヤバいって……! このアングルはダメだよ……」
そのためミアは、腰を激しく動かすことになる。
ミアは上下左右に腰を動かす。
そしてその動きは、俺の眼前で行われて……いるのだっ!
「タザキにはすまないが、〝ストーム〟に縛りつけることにした。さもなければ追っ手の
「す、すまないだなんてとんでもない……!」
ミアは気絶した俺を運びながら、敵から逃げていた。
しかもなぜか俺に謝ってくるが、立場が逆である。
むしろ俺が謝罪と感謝をしなければならない。
ミアのぱんつの、さらに上を見る。
上空は大量のドローンが飛んでいた。
たぶん、危険なやつだ。なぜってドローンは爆薬らしきものを搭載している。
そして地上ではゴーカートに乗った可愛らしいキャラクター達が迫ってくる。なおゴリゴリに武装している模様。
こんな状況で俺は寝ていたのか……!
と俺は戦慄する。
ミアは命の恩人ってレベルじゃないだろ。
「さて、ラッキースケベはそこまでだ。タザキ、武器を取るんだ。ここから忙しくなるぞ」
ポルカが俺の顔の上に乗っかり、肉球をぷにっと押し付けてくる。
「見えないぞ」
「当然さ、見えなくしているんだからねっ」
もう少し見てても良いだろ……。
何て嫌な猫だ。
だがまあ、許してやろう。
今はガチで危険が迫っている。それは事実だ。
「状況を説明する。僕らは今、ミアの愛馬〝ストーム〟に乗って、フェアリーランドを脱出しようとしている。敵の数が多すぎるから、一旦退却するところだ。
で、ミアは馬の操縦と、前から来る敵を迎撃していた。
タザキは〝ストーム〟に乗りながら、後ろから迫る敵を迎撃するんだ。弓道部ならできるだろう?
「あいにく、弓道部では流鏑馬はやってないけどな」
ポルカの肉球から、鋭い爪がにゅっと伸びた。
俺と馬を縛りつけるロープを引っ掻くと、俺の体は自由になった。
ポルカは猫の姿から変形して、丸い形になって浮遊した。
「じゃあ、今から流鏑馬をやれるようになってくれ。タザキの体は、僕が支えてあげよう。できるね?」
まあ常識的に考えれば、できるはずがない。
流鏑馬をするには、専用の訓練を積む必要がある。
だが――そんな甘っちょろいことを言っている場合では、ない。
「当然だ。ミアに助けてもらいっぱなしなんて、嫌だね――
ぶん、と鈍い音。
俺の
俺は弓を構え、自分に発破をかけた。
「うおっしゃ来い! 全部撃ち落としてやる!」
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