武器交換

 フライトブレードの調子は良好。

 バッテリーも満タン。

 崩壊した世界ポストアポカリプスの草原を、滑るように飛ぶ。

 一度は怖い思いをしたこの空飛ぶ板だが、便利なものは便利だ。

 しかも歩くよりも、遥かに爽快だ。

 とは言え、また墜落して死にかけるのは避けたいので、地上から一メートルくらいの高さを飛んでいる。


「ひゃっほーい!!」


 人類が衰退したせいだろうか、この世界の空気はやけに美味く感じる。気温も良い感じに温かい。ほぼ全裸のまま活動している俺にとっては、最高のコンディションだ。


「これが今日の目的地、ショッピングモールのデータだ」


 ポルカが言うと、視界にテキストが表示される。


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*時空転移されたギガモール

 文明崩壊を目前にした人類は、

 〈凍時シェルター〉を開発した。

 それは空間そのものを未来に送り込む技術。

 しかし人類には早すぎたらしい。

 ×××が原因となり、

 世界各地で〈凍時シェルター〉は暴走する。

 故にこのギガモールは、幾千年ぶりに

 地上に出現したのだった。

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「何か伏せ字になってんぞ、ポルカ」


「このテキストは、僕が手に入れられる情報から類推して生成しているんだ。僕が分からないことは、そのまま伏せているんだ」


「そうか。……まあいいや。とにかくショッピングモールが現れたなら、やることは一つだけだ」


 モラル的な意味では完全にアウトだ。が、ここは一万年後の未来だ。そんなこと言ってられない。サバイバルが優先だ。

 と、ギガモールまであと数百メートルくらいのところまで来ると、別の建物が見えてきた。


「ん? 何か他にもデカいのがあるぞ?」


「ギガモールに併設された遊園施設だ。タザキも行ってみるかい?」


 拡張現実オーギュメントがさらに情報を追加してくる。


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*フェアリーランド

 ギガモールに併設されたテーマパーク。

 「妖精の国」の住民が来訪者ゲストを迎える、

 誰もが楽しめる超巨大遊園施設。

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「はい解散! 間違いなく用ないだろ。……何が悲しくて一人で遊園地なんかに行かなきゃならんのだ」


「ねえタザキ。僕もいるよ?」


 おっと、機械仕掛けのサイコパス猫が何か主張してるぞ?

 だが明らかにポルカは一緒に遊園地にいく相手ではない。


「……俺達が行っても悲しいだけじゃないか。行くならせめて、ミアみたいな女の子と行きたい」


「それもそうだね。いつか来れるといいねえ。ミアと」


「おいポルカ。まさかとは思うが、俺のこと煽ってるのか……?」


「ははは。そんなことはないさ。ともかく目的があるのは良いことだ。だったらなおのこと、ギガモールで衣類くらいは手に入れた方がいいね」


「ああ、わかってる。そろそろ欲しいところだな。パンツ」


 この数日で、一応股間を隠す装備は手に入れた。

 そこら辺から抜いてきた雑草を編んだ腰みのだ。

 泣けるほどのクソザコ装備である。

 おかげで未だに俺の股間は涼しいままだ。


「時間軸は違えど、人間が生きる上で必要なものは大差ない。ギガモールにはタザキが想像するような衣料品や食料があるはずさ。――でもその前に、準備運動の時間だ」


 俺の視界に常時表示されているコンパスバーに、機械獣モンスターのアイコンが表示された。

 アイコンの色は赤。

 つまり敵対状態だ。


「ぬわー、嫌なタイミングだな」


 目を細めて遠くを見る。

 大量の機械獣モンスターが俺の方に向かってくる。

 地面からはもうもうと土煙があがっている。


「勢いがすごいな……。しかもすごい数だ」


 と言っても心の余裕はある。

 フライトブレードで空を飛べるので、最悪の場合はそのまま逃げればいい。

 それに何より、俺にはこの数日で手に入れた新しい武器がある。

 まだ実戦で使ってないので、そろそろ使いたいと思っていたところだ。


「ふーむ。機械化した重装牛バッファローの群れのようだ。タザキの新しい装備を試す、良い機会じゃないか」


「ポルカと気が合うなんて珍しい。俺も同じことを思ってたよ」


   *   *   *


「ひゃっはー!」


 俺はフライトブレードで飛びながら、重装牛バッファローの群れに突撃した。

 相手が空を飛べないと分かると、こういう風に大胆な行動ができて良いな。もちろんバッテリーの残量は把握する必要はあるけど。


 この数日の間に手に入れたアイテム、その一。

 圧縮現実コンプレスリング。

 手に入れた武器や道具は異空間の中にしまっておくことができる。

 拡張現実オーギュメントシステムと併用することで、一瞬のうちに武器や防具の出し入れができる。


 感覚的にはアクションRPGだ。

 あらかじめスロットに武器を入れておけば、ボタン一つで武器交換ができるやつだ。

 現実世界でこのアクションができるようになるのは、控え目に言っても最高だ。


 アイテムその二。

 機械弓コンポジットボウ

 機械弓コンポジットボウは昨日、旧世界の廃墟から回収したのだ。


 金属の板を何枚も重ねた弓で、滑車がついているメカメカしい弓だ。威力もかなりある。

 ポルカが言うには、ハンドガンと同じかそれ以上はあるらしい。

 やはり飛び道具は良いものだ。


 ちなみにその廃墟は武器メーカーの工場だったらしく、矢も数百本は手に入った。

 しばらくの間は、矢の残りを気にせずに撃ちまくれる。


「弓道部の血がたぎるぜ! ――武器交換チェンジ!」


 ボイスコマンドを告げると、手元に弓が現れる。


「うおーかっこいい! 武器交換チェンジ!」


 弓が消えて、手元にはナイフが現れる。

 うん、現実がマジでゲームみたいになってきたな。普通に楽しいぞ。


「ずいぶん楽しそうじゃないか。でもボイスコマンドを使わなくても武器交換はできるはずだけど? むしろ意識だけで武器交換をできるようになった方が良いね」


「いいんだよ! こっちの方がかっこいいし! チェンジ! チェンジ!」


 と、拡張現実オーギュメントが機械音声で警告してきた。


『警告。重装牛バッファローの群れに接近中。弱点部位をハイライトします』


「よっしゃこい!」


 ぶん、と震えるような音。システムによる戦闘支援。

 重装牛バッファローの横っ腹が緑色に染まった。

 俺は空中で静止し、弓を引き絞った。


 ――ビュァッ!!


 ばかん! と矢が重装牛バッファローの横っ腹を貫いた。一撃で敵を仕留めることができた。


「うむ、悪くないな」


 弓道部的には和弓と洋弓の違いが気になるところだが、まあよしとしよう。


「良い調子だ! 新しい武器の使い方は完璧だね! ちなみに重装牛バッファローには脂身たっぷりの可食部位がある。ついでに今夜の獲物を確保しておこう」


「了解だ! 肉肉肉ぅー!!!」

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