世界の断片

 眠れない。

 洞穴の中、俺はもぞもぞと動いていた。

 外は暗闇で、虫とも動物ともつかぬ何かが鳴いている。

 が、眠れない理由はそれではない。

 ミアが俺の隣で寝ているのだ。


 異性と同じ部屋で寝るというイベントに、俺の神経は果てしなく高ぶっている。

 それに時折、

「うーん……はぁっ…………」

 というミアの吐息が俺の耳元にかかる。


 色々と持て余してしまう。

 まずいぞ。

 このままでは徹夜確定。

 明日からの行動に明らかに支障を来す。


「仕方ないな」

 俺は気を紛らわせるために、拡張現実オーギュメントの画面を開いた。

 画面を開いても、スマホみたいに光ってミアが起きることはない。

 この画面は俺にしか見えないのだ。

 どうせ眠れないんだから、これまでの状況を整理しておこう。

 ミアと話したことで、新しい情報も出てきたし。


 俺は拡張現実オーギュメントを意識だけで操作し、画面を開いた。

 システムの中には【世界の断片】という項目がある。

 これが中々便利なシステムで、俺が見聞きした情報は拡張現実オーギュメントが自動的に集約してくれる。

 暇な時に目を通すにはもってこいなやつだ。


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【世界の断片】

*再起動する世界

 人類は旧世界の遺物を利用し、文明を再起動しようとしている。

 しかし一万年の時を経て、人類は旧世界の記憶を失った。

 それ故人類は、戦争という愚かな過ちを繰り返そうとしている。

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 食事をしながらミアに教えてもらった話をまとめると、世界の文明水準は中世くらいのようだ。

 世界はいくつもの国々が乱立して、たまに小規模な戦争が起こっている。そして機械獣モンスターは人類の敵であり、同時に獲得すべき資源らしい。それがまた争いの種になっているとか。


 だがその一方で、謎に未来っぽい要素もある。

 この世界では風力や太陽光による発電が行われている。上下水道を完備している国もあるらしい。

 人々は機械獣モンスターから採取したパーツや、旧世界の遺跡から発掘された遺物を駆使して、新たに文明を築き上げているのだ。


 ローテクとハイテクが入り交じった、不思議な世界観。

 やはりこの世界はもう、俺が知る地球ではない。

 むしろ思い切って「所々がメカっぽくなっている異世界」と認識した方がいいだろう。


 よし、世界認識というか、世界設定はオーケーだな。


「うっ」


 そこまで復習したところで、寝返りをうったミアの手が触れた。


 俺の局部に。


「……ぬぉおおっ…………!!」


 むぎゅっ、と先端を掴まれる。

 そう言えばミアは、巨大な槍を持っていた。

 もしかして、眠りながら槍の訓練をしているのだろうか?


「ぬはっ」


 腰みのの奥にある、俺の中の眠れる獅子が、少しずつ目覚めようとする。

 だめだ、落ち着くんだ。

 こういう時はやはり、別の考え事をするに限る。


 俺は次の【世界の断片】に目を通すことにした。

 ミアとの会話で一番引っかかっていたこと。

 それは、ミアが追いかけているという機械獣モンスター

 そう、業魔ごうまだ。


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【世界の断片2】

業魔ごうま

  機械生命に感染するウイルス。

 業魔ごうまに感染した機械獣モンスターは凶暴化し、

 あらゆるものを破壊し尽くす。


*鉄の戦士、ミア

 ミアは業魔ごうまに感染した、とある機械獣モンスターを追いかけている。

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 うーん、危険な予感がするぞ。

 これまで沢山の機械獣モンスターに遭遇してきた。

 だが、どれも業魔ごうまとやらの特徴には当てはまらない。

 言うなれば、普通のモンスター。

 モンスターなので俺と敵対してはいるが、割と常識的なムーブをしていた。あらゆるものを破壊し尽くす「狂キャラ」な個体はいなかった。


 これまでの戦闘で、ポルカも何も言ってこなかったことを考えると、俺はまだ業魔ごうまに遭遇はしていないのだろう。

 業魔ごうまのことは、もっと調べておいた方が良さそうだ。


「のほぉっ」


 と、そこまで整理したところでまたも声が漏れた。

 ミアの柔らかい指が俺の俺に絡みついてきたのだ。

 駄目ですよミアさん。

 そんなことしたら取り返しがつかないことになってしまいます。


「集中しろ……俺、全集中だ……次の項目を読もう……俺はこの世界を……サバイバルしなければならない……!! ……うっ」


 結局その夜は、一睡もできなかった。

 明け方になって、俺はようやく眠りについた。


   *   *   *


 目を覚ますと、ミアの姿はなかった。

 昨日の夜宣言したとおり、宿敵を追い求めて旅を再開したのだ。


「もう旅に出たのか。ミアも気が早いな……ん?」


 洞穴の隅に、一枚の布があった。


「これは……ミアの下着じゃないか! まさか忘れていったのか?」


 と、背後からポルカが声をかけてきた。


「いいや、違うよ。ミアからの伝言だ。『昨日はありがとう。これはタザキに贈る』とのことだ」


「マジか」


 俺は薄くて小さくて、えっちな布を手に入れた。


「改めておはよう、タザキ。ここで装備するかい?」


「これは大事にとっておく。いつか服を手に入れた時に、ミアに返すんだ」


 これを履いたら俺は変態として、次なるステージに行くことになる。

 それだけは避けねばならない。

 俺はミアのパンツを凝視した。

 断じて変な意味じゃないぞ。

 圧縮現実コンプレスリングを起動して、アイテムボックスにしまうためだ。

 布地のくたびれた感じが生々しいとか、断じて思っていないからな。


 少しすると、ミアのパンツが光った。

 そして次の瞬間には消えてなくなっていた。


「ふう……これでよし。ちゃんとアイテムボックスにしまえたな」


「どうしたんだい? タザキ。ずいぶん名残惜しそうじゃないか」


「そ、そんなはずないだろっ」


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*ミアの下着をアイテムボックスに格納

*ミアの下着を〈貴重アイテム〉に移動

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