名探偵ポルカ
「なるほど。そういうことだったか……」
俺はビキニ姿の女の子を抱えようとして、手を止めた。
近くには小川が流れていた。
そして小川のほとりには革製の丈夫そうなバックパック、巨大な槍、そして金属の鎧が置いてあった。
「この子は装備を脱いで水浴びしてたみたいだな」
「そんなとこだろうね。そうしたらタザキが空から降ってきたという訳だ」
「何か申し訳ないことしたな…………あ」
周囲を見渡すと、さらに申し訳ないことが発覚した。
干した肉が泥だらけになり、あたりに散らばっていた。
明らかに女の子が食べようとしていた保存食だ。
しかも既に、ほとんど川に流されている。
「ふむ。名探偵ポルカの推理によれば――」
「いつから探偵キャラになった? それにこの状況は俺でも分かるぞ」
ポルカは俺のつっこみを無視して話を続けた。
「この子は水浴びをした後で、保存食を食べようとしていたのだろうね。そして気絶するほど空腹なのに水浴びを先に選んだ。ということは、かなり綺麗好きなのかもしれない。……でも君が空から落ちてきて、水浴びも食事も台無しになった。実に残念だったね」
「改めて言わなくても良くないか!?」
「でも事実じゃないか」
「まあそうだけど……」
「それからもう一つ。こんな状況だというのに、この子は少しも怒らなかった。かなり性格が良い人か、大物の詐欺師かのどっちかだ」
「明らかに前者だろ? いやほんと、性格よすぎだろ……」
この子は俺の命を救い、しかも台無しになった食事を責めるでもなく「腹が減った」と笑ったのだ。
こんな良い人に会ったことないぞ。
「決まりだ。元から決めてたが、なおのことだ。この子を何としてもベースキャンプに連れて帰ろう」
「うむ。僕も賛成だ」
この子には、おいしいご飯を食べさせてあげたい。
おっぱい大きいし。
が、問題が一つあった。
「でも……荷物が多いな」
革製のバックパックに槍と鎧。
鎧はプレートメイルみたいなやつで、そこまで重くはないだろう。だが槍は全長二メートルはある。かなり重そうだ。
俺は
「ここからベースキャンプまでは五キロくらいか。遠いな」
歩くだけなら問題ない。
が、意識を失った女の子とこの荷物を運ぶとなると話は別だ。途中で俺も倒れるかもしれない。
するとポルカがふわりと宙に浮かび、俺の肩に飛び移った。
「やれやれ。君は自分が手に入れたアイテムのことを忘れてしまったのかい?
ゲームでよくある「アイテムボックス」。
アイテムを手に入れた直後の展開が激しすぎて、完全に記憶から飛んでいた。
「そうだったな。そのために必死こいいてあのコウモリと戦ったんだよな」
「ははは。こんなに大事なアイテムのことを、忘れてもらっちゃ困るよっ」
ぺいっ、とポルカが機体の中からリングを出した。
移動中はポルカが持っていてくれたのだ。
「
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*
*
*YES/NO
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即座にYESを選択。
が、特に何も変わらない。
「どうやって使うんだ?」
「
「うん……? うーん」
俺は女の子の鎧をじっと見つめた。
何も起こらない。
まずいな。
このままでは女の子が着ていた鎧を物色するだけの変態みたいになってしまう。
鎧の内側がちょっと汗で湿っている。興奮してくるな。おっと、俺は変態じゃないぞ。
「タザキ。ちゃんと集中するんだ。何か変なことを考えているんじゃないだろうね?」
「ははっ……! 何のことか分からないな! さっきから頑張っているんだけどなあ」
「ゲームのコントローラーで例えるなら、R3ボタンを長押しするみたいなイメージだ。どうだい?」
「逆に分かりづらい!? あ、でも何か光ったぞ!」
鎧が淡く白い光に包まれた。
そして次の瞬間には、鎧は俺の目の前から消えた。
「き、消えた!? ポルカ、鎧が消えたぞ!」
そして視界にテキストがポップアップした。
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*戦士の鎧をアイテムボックスに格納
*再び取り出すには、アイテム一覧から選択してください
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「まあ落ち着きなよ。鎧はアイテムボックスに格納されただけさ。取り出す時は、
「マジか……」
俺は
確かに鎧のアイコンが表示されていた。
鎧のアイコンを選ぶ。
すると何事もなかったかのように、俺の目の前に鎧が出現した。
「何なんだ……この未来技術は」
「西暦3000年代。タザキの時代からすれば、およそ千年後の技術になるだろう。これなら女の子を連れて帰るのも楽勝だね。他の荷物もアイテムボックスに入れてしまおうか」
「了解だ」
俺は槍と、移動用の鞄もアイテムボックスにしまった。
ついでに俺が乗っていたフライトブレードも。太陽光で半日ほど充電すれば復活するらしい。
残るは女の子だけ。やはりまだ意識を失っている。早く食事を食べさせてあげたいところだ。
「さて、ではこの子もアイテムボックスに入れようか」
「ちょ……ちょっと待った。ポルカ。また無茶苦茶なこと言ってんな?」
「無茶でも何でもないよ? 言ったろう。大抵のものは入れられるってね。その中には人間も含まれているよ」
「いやいや、おかしいだろ。つうか異空間の中ってどうなってるんだ? 人間が入って大丈夫なのか?」
「問題ない。酸素濃度も気温も、ここと同じくらいさ」
「へえ。大丈夫っちゃ大丈夫ってことか。でもなあ……何というか…………」
「どうしたんだい? この子もアイテムボックスに入れてしまえば、移動が快適になるのは明らかだろう? 何を戸惑っているんだい? 訳が分からないよ」
「まあ、ポルカには分からないかもなあ」
ビキニ姿の女の子を背負うイベントが消えようとしている男の気持ちは、ポルカには分からないだろう。
しかも俺は全裸だ。女の子の胸をダイレクトに背中に感じることができるんだぞ。やらない理由がどこにあるんだよ。
「やっぱりこの子は、俺が背負う。それが人として正しいあり方な気がするんだ」
「何て非合理な選択だ。タザキ。僕には理解できないよ」
「分からなくても仕方がない。これが人間の『気遣い』というやつだ。この子も目覚めた時にアイテムボックスの謎空間の中だったら、びっくりするだろ。命の恩人にそんなことはできない。それが俺の心意気なんだ……!!」
と何とかポルカを説得しようとする。
「そうか。それがタザキの心のあり方なんだね。君がそこまで言うならもう止めないよ。頑張ってくれ」
「分かってくれてうれしいよ、ポルカ」
そうして俺は、背中に最高の感触を感じながらベースキャンプに向かった。
――のもつかの間。
女の子はかなり筋肉質で、見た目よりもかなり重かった。
天国のような、地獄のような移動は五時間もかかった。
ベースキャンプに着く頃には、俺は生まれたての子鹿のようになっていた。
でもやっぱり、俺の判断に後悔はなかった。
この荒れ果てた世界で、初めて人肌に触れた。
ただそれだけのことなのに、俺はやけに嬉しくなっていた。
えっちな意味で背負おうとしたのは確かだ。
が、途中から完全にそんな気分じゃなくなっていた。
俺は人に飢えていたのかもしれない。
女の子が目覚めたら、何を話そうかな。
うん、まずは初めに名前を聞こう。
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