鉄の民
最悪だ。
せめて普通の格好で死にたかった。
欲を言えば、このチ○コをちゃんと使って死にたかった。
いや、本番まで行かなくても、せめて女の子をぎゅっと抱きしめたかったなあ。
異性どころか、人一人いない荒野で死ぬなんて。
やりたかったなあ……種付けプレス。
と、ポルカの声が俺を現実に引き戻す。
「タザキ! 何を諦めているんだっ! あの木に掴まれ!」
「ぎょえええええ!」
目の前に高い木があった。
反射的に枝を掴む。
が、握力が足りない。
枝を掴みそこね、ずるっと滑る。
また落下。
だが少しだけ勢いは弱まった。でも死ぬだろこれ。
「よし、いいぞ! 後は僕が全力で持ち上げる! 僕の機体じゃ出力が足りないけど、大丈夫。全身粉砕骨折と内臓破裂くらいで済むはずさ!」
「……それは普通に死ぬじゃん!? って、え? んんん? ねえポルカ。下に誰かいない? 人、じゃないか……?」
フル○ンで落下死寸前の時に気にするべきことじゃない。
それは分かってる。
だが下にいるのは人で、女の子だった。
普通に気になるだろ。
しかも黒いビキニを着て、両手を掲げているし。
ものすごく気になるだろ。
まさか俺を抱きしめようとしてる?
そうか分かったぞ。
これは死に瀕した脳が見せる、走馬燈的な何か――
ではなかった。
女の子が、叫んだ。
「S`{<%$!!!」
一万年後の言語のせいか、ちょっと何言ってるか分からない。
そして考えを巡らせる余裕もない。
俺は女の子に向かって落ちていった。
ばしっ、がしっ、むにょん。
ごろごろごろ、ばいんばいん、むちっ。
「わーお……」
この擬音だらけの状況を地上で撮影していたカメラがあったとしたら、こんな説明になるだろう。
空から俺が降ってきた。地上には黒いビキニ姿の女の子がいて、女の子は俺を助けようとした。
女の子は落下する俺を抱きとめると、落下の衝撃をいなすように、地面に転がった。
俺は奇跡的に無傷で着地した。
しかしその結果、俺は女の子の胸に顔を埋めるような体勢になった。
俺は思わず声を漏らした。
わーお。
説明は以上だっ!
「地獄から……天国………………ッ!!!」
女の子と目が合った。
燃えるような赤い瞳。
柔らかくしっとりした肌。
緩やかにカールした銀色の髪は、絹糸のような光沢をまとっている。
そして黒いビキニ!
実際はビキニというよりは下着、なのだろう。
でも黒くてつるつるとした布地は、黒くてセクシーなビキニそのものだ。肌の色とのコントラストがエグいぞ。
え、えっちだ…………。
荒れ果てた未来で全裸サバイバル。
ここまで地獄みたいな状況が続いてた。が、いきなり何だこの展開は。神か。やはり神はいるのか?
なんて思っていると。
「タザキ。だめだよ。えっちなのは良くない」
ポルカの声が頭上から聞こえた。
良いだろちょっとくらい。
「そのままじゃ君の下半身は、男性的な反応を示してしまう。一万年後の未来も、性的規範は君が生きた時代とそう大差はないよ。ラッキースケベはそこまでだ。はやく離れた方がいい」
「そ、そうなのか……」
というか、そりゃそうだ。
そもそも初対面の女の子に全裸で覆い被さるとか、刑法犯にもほどがある。
「あ」
俺は致命的な問題に気づいてしまう、
人前で全裸ってヤバすぎるだろ。
普通に恥ずかしい。
この世界は人がいなすぎる。そのせいで全裸生活にちょっと慣れてしまっていた。が、常識的に考えれば服は着るべきだ。
「うわ、どうしよ。何か隠すのないか……? あ、そうだ」
俺は空飛ぶ板――フライトブレード――を足から外し、ついたてのように立てて体を隠した。
よし、大事なところは隠せたぞ。
とりあえずお礼をしよう。
俺はブレードごしに女の子に声をかけた。
「あ、あの……ありがとう」
「`K▽(%%、????」
「うーん……何て言ってるか分からんぞ」
すると、
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*〝鉄の民〟の言語を検知しました。
*言語設定を更新しますか?
更新した場合〝鉄の民〟との会話が可能になります。
YES/NO
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「鉄の民……?」
「前にも言っていたけど、一万年後の世界にも人類はいる。で、文明水準は、世界史で言うと中世と同じくらいだ。そして〝鉄の民〟ってのは、鉄の王国〈フェムグラーダ〉の国民だ」
ポルカと初めて会った時に、そんな話はしていた。
文明は崩壊して、人類はほぼ滅亡した。
だがそこから一万年の時を経ながら、人類は少しずつ復活しようとしているのだ、と。
「僕がデータを集めた限りにおいては、〝鉄の民〟は割と友好的な人間が多い」
「なるほど。だったらなおさら喋れるようにしないとな」
が、いちいち気にしていても仕方ない。
ここはYESを選ぶしかないだろう。
その直後、少しハスキーで、しかし良く通る声が聞こえた。
「腹が減った。何か食べるものはないか?」
初対面でいきなり飯の話? と戸惑うが、彼女は相当に空腹なのかもしれない。
でもめっちゃ声がでかい。空腹というよりは、普通に元気いっぱいにも見える。
「悪いけど今はない。このとおり全裸だし。でも近くに俺の家……らしきものがある。洞穴だけど。そこまで行けば簡単な食事くらいなら出せる」
魚ならすぐに採れる。
それに彼女は命の恩人だ。食事くらい、いくらでも提供しよう。
「助かる。このままでは自分の腕を食ってしまうところだった!」
「めちゃくちゃ飢えてた!?」
「ははははっ。それほどでもないさ。半分は本気で、もう半分も本気だった」
「100%本気!?!?」
「だがこうして君に会えて実によかった! 我が腕は救われた! 君は我が腕の恩人だな!」
助けられたのは俺の方なのに、逆にお礼を言われてる。
さてはこの子、良い人だな?
「いやいや、俺の方こそ死ぬとこだった。本当にありがとう。俺の名は田崎。
「わっはっは。タザキか。珍しい名だな。そして私としたことが名乗るのを忘れていた! 我は鉄の王国〈フェムグラーダ〉の戦士、名は――――」
と言いかけたところで、女の子は後ろ向きにばたりと倒れた。
「え? あれ? ……おーい」
つんつん、と肩のあたりをつつく。反応がない。
女の子は笑ったまま気を失っていた。
と、ポルカが機体から機械のアーム繰り出して触診する。俺にもやらせて欲しいぞ。
「うん、一時的に意識を失っているだけみたいだ。まあ〝鉄の民〟は体が強いから、大丈夫さ」
「ていうか、マジで腹減ってたんだな」
俺はやたら豪快でセクシーな女の子を背負い、ベースキャンプに戻ることにした。
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