機械化した魚は食べられない

 俺はアイテムを運びながら、来た道を戻った。

 ベースキャンプの近くまで来たところで、俺は手に入れたアイテム一覧を表示させた。


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*ファイバースパイダーの繊維

*ナイロンマッシュルーム

*悪食ワニの内臓電源

*水晶竹

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 うん、文字だけ見ると何がなんだかさっぱりだな。


 ファイバースパイダーの繊維は、要するにめっちゃ丈夫なひもだ。ねばねばしたやつもあったが、気持ち悪いので回収しなかった。


 ナイロンマッシュルームはもこもこしたキノコだ。手触り的にはクッションに似ている。


 悪食ワニは、でかいワニの形をした機械獣モンスターだった。そいつの体内のほとんどはバッテリーが占めている。だから「内臓」電源というらしい。

 こいつを倒すのも中々に苦労したが……省略。


 水晶竹は、ものすごく透き通った竹だ。厚めのペットボトルみたいな質感をしている。


「アイテムの用途が謎すぎて、サバイバルできるようには思えないんだが……」


「慌てない慌てない。まずは、水晶竹を切ってみようか」


 俺は何でも切れるナイフこと〈豊穣の月〉で、透明な竹を横に切った。

 ポルカの説明を待つまでもなく水晶竹の使い道は分かった。水を入れるボトルだ。


「竹って言うかペットボトルみたいだな。そうか。これで川の水を飲めってことか。助かった、すげー喉渇いてたんだよ」


 と、俺が川に向かおうとすると、ポルカは立ちはだかった。


「待つんだタザキ、ちょっと落ち着こうか」


「使い方、違うのか? どう見ても水を汲むやつだろ」


「そのとおり。それは水を保管するための道具だ。だが命は大切にしてくれ、そんな水を飲んだら、腹を壊すどころの騒ぎじゃすまないぞ。川の水は病原菌や有害物質であふれている」


 喉が渇きすぎて冷静さを失っていた。

 そう言えば俺も普段は川の水をそのまま飲んだりしないわ。


「じゃあ火を起こして蒸留したりするのか?」


「いいや、もっと簡単な方法がある。水晶竹の切り口から、白い液体が滲んでいるだろう? それを汲んだ水に溶かして30分待つといい。水晶竹の樹液には殺菌消毒、不純物の沈殿効果がある」


「めっちゃ万能! それだけで水が飲めるようになるのか?」


「もちろんさ。安全な水だよ。でもボトルの底にたまった沈殿物は飲まないように。普通に毒だからね」


「やったぜ……これで好きなだけ水を飲める! 普通の生活の第一歩だ」


 これまでは、ポルカが調達してきた謎の木の実を食べていた。

 水分補給に不自由はしなかったが、けっこうお腹いっぱいになるんだよな。

 水だけを飲めるというのは実にありがたいぞ。

 俺は追加でボトルを大量生産した。

 これでしばらく水に困ることはないだろう。


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*所持アイテムの更新

 水晶竹の抽出液を入手しました

 水晶竹のボトルを入手しました

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「さて、次は食事の準備だ。魚を採りにいこうか。持ち物は、悪食ワニの内臓電源だ」


「え、電源? 何に使うんだ」


「それは行ってのお楽しみさ」


   *   *   *


 小川に沿って何分か歩くと、ごつごつとした岩場が現れてくる。

 川面には魚の影がちらほらと見える。

 太陽の光を反射して、キラキラと輝く個体もいた。

 さっさと捕まえて食事にしたいところだ。

 普通に腹減ったぞ。

 ……だがバッテリーでどうやって魚を採るんだろう。


「で、どうすりゃいいんだ?」


「まずは川の石を積み上げて、魚を追い込めるようなダムを作るんだ」


「お、本格的にサバイバルっぽくなってきたぞ。そこに魚を誘導するって訳か」


「いいや違うよ。ダムを作ったら、その中にバッテリーを投げ込むのさ」


「え……ええ? どういうこと?」


 ものすごく混乱する。

 まず、自然の中に電池を投げ込むというのは、何かものすごく悪いことをしているような気になる。

 そして、そんなことで魚が採れるのか? という謎がある。


「意味が分からんのだが? 餌を置いて魚を誘導する、とかなら分かるんだけど……」


「やってみれば分かるさ」


「そうか……じゃあとりあえずやってみるか」


 30分ほどをかけて、俺は小川の中に小さなダムを作った。

 そしてバッテリーを投げ入れた。

 すると――


「お? おおおお?」


 なんと魚がバッテリーの近くに寄ってくるではないか。

 さすが一万年後の未来だ、訳が分からないぞ!


「バッテリーで魚を誘導してるってことか?」


「そういうことになるね。でも慌てるのはまだ速い。ここに集まっている魚は魚だ」


「何でだよ? 普通に泳いでるじゃないか」


「ここにいるのは、機械化した魚だ。バッテリーが発する微弱な電気を求めて集まっているのさ。つまりは充電だね」


「ほえー……」


 俺が知っている常識と違いすぎる。

 こういうのを見ると、俺は本当に一万年後の未来にいるんだと思い知らされる。


「機械化した魚の大半は金属の骨と油だ。だから、あらかじめ選別するって訳さ」


「てこては、ここにが食べられるやつってことか」


「そうなるね。じゃあ次のステップだ。川に石を投げて、その衝撃で魚を気絶させるんだ。タザキの時代では『ガチンコ漁』なんて呼ばれていたかな?」


「やったことはないが、聞いたことならあるぞ。普通に禁止されてたけどな」


「今は環境破壊を取り締まる政府もいないから大丈夫さ。それじゃあやってみようか。まずは大きめの石を探そう」


「了解だ」


 ちょうど足元に手頃な石があった。


「よし、このあたりにしようかな……いよっと」


 ずしりと重いが、なんとか投げられそうだ。

 狙うのは、川面から顔を出している岩。


「そおい!」


 ガチン! と石が衝突し、鈍い音が響く。

 その直後。

 ぷかーっと何匹かの魚が浮かんできた。

 成功だ。が、気絶した魚が下流に流されていく。

 俺は慌てて川に飛び込んだ。


「うお、やばい! ……おお、つめたっ……!」


 こういう時、脱ぐ服がないってのは便利でいいな。

 足の裏にぬるりとした苔の感触。

 水温は思ったよりは冷たくはなかった。

 むしろ気持ちいいくらいだ。

 俺は魚を捕まえながら、つぶやいた。


「ああ……なんか良いな。この世界は気持ちいい」


 一万年後の世界は、まるで梅雨入り前の初夏のように快適な気候だ。全裸で草原に寝転がってもギリ寝られるし。

 状況としては最悪だが、天気が良いのがせめてもの救いだ。


「魚も採れたし、ベースキャンプに戻ろう。腹減りすぎて気持ち悪い」


「ならば調理は僕がしよう。と言っても火をおこすだけだけどね」


「ああ。そうしてくれ」


 と、拡張現実オーギュメントのテキストウィンドウが出現した。


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*5匹の川魚を確保しました。

*19の狩猟経験値を獲得しました。

*12時間連続行動しています。

*休息を推奨。

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「おお、今日はこんなに動いていたのか。夢中になって気づかなかったぞ」


 そして拡張現実オーギュメントまでもが休めと言っている。

 確かに今日は充実した一日だった。

 機械獣モンスターとの戦闘にアイテム回収。

 食料も確保できた。

 今一つ使い道が分からないのばかりだが、そこはポルカが何とかしてくれるだろう。

 と言うか、どんな使い道があるのか楽しみですらある。


「よし、じゃあベースキャンプに帰るとしようか」 


 俺は充実した気分で、帰り道についた。

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