資源回収クエスト

 水や食料が欲しいってのに、機械獣モンスターとのバトルに突入。

 防具はなし。全裸だ。

 武器はナイフ一本。〈豊穣の月〉。未来のハイテクナイフだ。


「gshu――」


 と、俺の数倍はある機械じかけのクモが迫る。

 金属製の脚はまるで油圧式の機械みたいにごつい。

 威圧感がただごとじゃないぞ。


「これは訓練だ。拡張現実オーギュメントの機能だけで戦うんだ。僕からの情報支援はなしでやってみよう」


「いきなりそりゃないだろ! 心の準備ってものがあるだろ!?」


「これは失敬。ちょうど今言おうと思っていたのさ」


「のぁー! 話が急すぎる!」


 ポルカは罪悪感を感じるセンサーがぶっ壊れているか、そもそも存在しないのだろう。マジふざけんなし。


「どうする? やはり僕の情報支援が必要かい? その場合、タザキはただ指示通りに動くだけになる。昨日みたいにね」


「めっちゃ煽ってくるな! なんつー猫だっ!」


 昨日の戦いは、ある意味ではポルカの手柄みたいなものだ。

 俺は情報支援に従って身体を動かしていただけなのだから。

 これからは俺自身の実力を、戦う力をつけていく必要がある。


「でも事実だろう? 現実はいつだって急なのさ」


 そのとおりだ。

 それは紛れもない事実だ。


「わ、分かったよ……! やってやるよ!」


 この世界にきて、二つ覚悟を決めたことがある。

 一つは戦う覚悟だ。

 世界は危険に満ちている。

 敵は俺を待っていてはくれない。

 だから戦うしかないのだ。

 そしてもう一つは、この世界を楽しむ覚悟だ。


 文明が崩壊した未来世界。

 世界には機械の獣がいて、拡張現実オーギュメントはアクションゲームみたいな手触りだ。ポルカもこの世界を冒険しろ、とか言うし。

 考えようによっては、ゲームな異世界に転生したと思えなくもない。


 どうせやるなら、楽しんだ方が良い。


「うぉおおおっしゃあああ! やってやんよ!」


 ナイフを構えて突撃。

 拡張現実オーギュメントが起動した。


『攻撃の予備動作を検知』


 視界に矢印のサイン。


「分かってるよ……っと!」


 全裸で地面をローリング。

 ファイバースパイダーの吐き出す糸が外れ、近くの木にヒットする。


「弓道部なめんなよ!」


 よく分からんテンションで〈豊穣の月〉を構える。

 弓道部なのに武器がナイフってどういうことだよ。

 まあいいけど。


 敵の懐にもぐりこみ、ナイフを一閃。

 ズパッ!

 ファイバースパイダーの脚を切り落とした。


「よし、まずは一本……!」


 やはり手応えは全くなかった。

 それだけ刃の切れ味がえげつないのだろう。


「SHHHHHHH――――!!!」


 ファイバースパイダーの反撃。

 残りの脚を振り回してくる。

 回避。


「よし、何とかなりそうだ」


 攻撃は見切れている。

 慣れてくれば拡張現実オーギュメントの矢印がなくてもかわせるぞ。


「タザキ、油断は禁物だ!」


 珍しくポルカが警告してきた。

 同時に、ファイバースパイダーの動きが変わった。

 ナイフの脅威を察知したのか、糸を連続して吐き出してくる。


「うおっと……戦い方が変わった!?」


 今の装備だと、遠距離攻撃をされるとつらいものがある。


「くそ、うおお……っ! あぶね! この糸、すげーねばつくぞ!」


 そこからしばらくの間、劣勢が続いた。

 吐き出す糸をひたすらにかわし続ける。

 錆びた鉄塔や樹木、岩……あらゆるものに糸が絡みつく。

 まるでプロレスのリングのように、周囲が囲われていく。


 うん、これは回避するしかない。

 こんなのに絡み取られたら、エロ同人みたいに全身を拘束されてしまう。

 俺の行動範囲はせばまり、ジリジリと追いつめられていく。


「タ、タザキ!? どうしたって言うんだ! 早く戦うんだ!」


 珍しくポルカが少し焦った声を出す。

 何かいい気味なので、もう少し放置しておこう。

 客観的には、俺はファイバースパイダーに追いつめられているように見えるだろう。


 だが俺には策があった。

 ファイバースパイダーの糸をかわし続ける中で、ふと気づいたのだ。

 奴が吐く糸は、いくつか種類があった。

 粘り気が強い糸。

 鋼のように固い糸。

 ロープみたいにしなる糸。

 ファイバースパイダーは吐き出す糸を使い分けているのだ。

 この戦いの中で、俺はそこまで見切っていた。

 だから次に想定されるのは――


 ――ザザザザザッ!!


 予想通りだった。

 ファイバースパイダーが飛び跳ね、糸の上に飛び乗った。

 そしてガサガサと空中から攻撃を続ける。

 俺は糸で作られたリングの端に、どんどんと追い詰められていく。

 絶体絶命の危機、というやつだ。


「GGGGGG……」


 チェックメイトとばかりに、ファイバースパイダーは口元を鳴らす。

 獲物を前に舌なめずり、と言ったところか。

 だがチェックメイトは、俺の方だ。


 ファイバースパイダーが口を開けた瞬間、俺は〈豊穣の月〉を一振りした。

 斬るのは敵ではなく――巨大な木の根元だ。


 ――すっ。


 さすがは未来のナイフ。何の手応えもなく木が切れた。

 次の瞬間、大木が物凄い速度で飛んでいった。


 ――ズパッ!!!


 弱点部位にクリーンヒット。

 ファイバースパイダーの上に【クリティカル 950】のテキストが表示された。やはりかなりHPが高い強敵だったようだ。


「おお、予想以上の威力だったな」


 拡張現実オーギュメントが淡々と勝利を告げる。


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*ファイバースパイダーを撃破

*96の戦闘経験値を獲得しました

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「まさか、糸の張力を利用したのかい!? やるじゃないか!」


「そんなところだ。クモの糸に相当な力が加わってるのは見れば分かるからな。それを支えてる木を切れば、反動がものすごいことになるのも簡単に想像できる」


 で、後はタイミングと敵の位置を見て木を切るだけ。

 簡単なお仕事だ。


「その場で作戦を組み立てたという訳か……! すごいぞ、何という戦闘センスだ! タザキ。やはり君は何かを持っている。とてつもない才能があるのかもしれない」


 珍しくポルカが興奮しているようだ。

 だが種を明かせば簡単なことだ。

 作戦そのものは、確かに一か八かだった。

 失敗する可能性もあっただろう。

 だが――俺には保険がある。


 本当にヤバい場合はポルカが助けてくれる……という計算があった。

 だから俺は、ここまで大胆な動きを取れたのだ。

 もちろん、ポルカにここまで言うのはしゃくなので黙っておくことにした。


 ちゃんとした実力を付ける、というのは今後の課題にしよう。

 それから数時間が過ぎて、全てのアイテムを確保することができた。


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*資源回収クエストをクリアしました

【獲得アイテム】

*ファイバースパイダーの繊維

*ナイロンマッシュルームを採取

*悪食ワニの内臓電源

*水晶竹を採取

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 拡張現実オーギュメントには、しっかり手に入れたアイテムが記録されていた。現実の動きがシステムにも反映されていて、仕組はよく分からないが便利だ。


 あとは本当にゲームみたいにアイテムボックスがあれば行動も楽なのだが、現実はそうもいかない。

 回収したアイテムは、手で運んだのだ。

 ……それはそうとして。

 これってどうやって使うんだ?


「ポルカ。本当に、サバイバルできるんだよな?」

「もちろんさ。まあ見ててくれよ」

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