クレイジーサイコ猫型ロボット

 とりあえずの活動拠点ベースキャンプが決まった。

 今はただの洞穴だけど、色々と充実させていきたいところだ。

 次は、本格的なサバイバルだ。

 水に食料、燃料が欲しい。


「ポルカ。これからどこに行けばいいんだ?」


「じゃあマップを開いてみようか」


 俺は拡張現実オーギュメントを操作して、周辺のマップを開いた。

 ぱっと見では、ベースキャンプの周辺は広大な草原に囲まれている。草原エリアの中に、廃墟が点在している。


 そして数キロほど北に移動した先には森林地帯が広がっているようだ。その森林地帯に、マップのピンが刺さっていた。


「次は森林地帯に行ってみようか。何とか歩いていける距離だからね」


「ベースキャンプの近くには川も流れてるし、草原にも機械獣モンスターもいるだろ? 何でわざわざ遠い森へ?」


「簡単に言えば、僕らが欲しい素材は森の機械獣モンスターが持っているのさ」


「はあ……今日も機械獣モンスターとやりあうのか。まあ、仕方ないか」


 ここで俺の現在の装備を説明しよう。

 防具、なし。

 清々しいほどに全裸だ! 靴だけでも欲しいぞ。

 武器、ナイフ一本だけ。

 以上だ!


 こんな装備で本当に大丈夫か? と心配になる。

 今のところは現地人と遭遇していないが、もし遭遇したら「フル○ンナイフ男」的なあだ名をつけられるだろうな。


 が、ぐずぐずしていても始まらない。

 何もしなくても日が暮れるし、のどが乾くし、腹も減る。

 それだったら、さっさと行動した方が得だ。

 俺は諦めて森林地帯へ向かった。



 一時間ほど歩いたところで、草原エリアが終わる。

 うっそうとした森林地帯と、険しい山が見えてきた。


「そろそろタザキの拡張現実オーギュメントにも機械獣モンスターの反応が出てくる頃かな?」


 ポルカが言うとおり、俺の視界に機械獣モンスターのアイコンが写しだされる。

 アイコンの色はどれも青。

 今のところ気づかれてはいないみたいだ。

 そして――拡張現実オーギュメントからの通知。


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機械獣モンスターの楽園

 ウトゥンカ平野の東部に位置する、

 機械獣モンスターの群生地。

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機械獣モンスターの楽園て……。ポルカ、本当に大丈夫なのか?」


 昨日みたいな激しい戦闘は勘弁願いたい。

 命がいくつあっても足りないぞ。


「昨日は運が悪かっただけさ。今日はそこまで激しい戦闘はないと思うよ?」


「そうか……分かった。んで、俺はどうすればいい?」


拡張現実オーギュメントにデータを送る。ゲームをやったことがあるなら、分かるだろう? いわゆるクエストってやつさ」


 と、さらに俺の視界にテキストが表示された。


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【資源回収クエスト】

*ファイバースパイダーの繊維を採取

*ナイロンマッシュルームを採取

*悪食ワニの内臓電源

*水晶竹を採取

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「なるほど。よくあるお使いクエストってやつか。現実なのに、ますますゲームじみて来たな」


「どうせ現実なら、少しでも楽しい方がいいだろう? クエストの対象になる機械獣モンスターが近づいたら、拡張現実オーギュメントがハイライトするよ。タザキはとにかく、狩りと素材の採取に専念してくれ」


「お、おう……」


 だが機械獣モンスターの名前からして、ヤバい予感がする。


 俺はもっとスローライフだったり、チートな強さで無双するやつを期待しているんだが……。


「て言うか、これって本当にサバイバル生活に必要なのか? 俺が欲しいのは水とか食糧なんだけど」


「問題ない。素材の使い方は後で教える。大事なのは、死なずに資源を確保することださ。死ななければ何とかなるからね」


「すげー物騒だな!? 昨日より危ないんじゃないか?」


 だがポルカは「ははは」と笑うだけだった。

 まあ、サバイバルできるなら良しとしよう。

 俺は渋々ながら、森の中へと入っていった。


   *   *   *


 森に入った直後、ターゲットが見つかった。


「あれがファイバースパイダーか。普通にでかいな」


 端的に言えばデカいクモ。

 でも生き物特有の毛とか手足のリアルさは薄い。

 生々しさを感じさせるようなパーツは全て、機械に置き替えられているのだ。

 そのクモが廃棄された鉄塔に巨大な巣を作っていた。


「必要なのは……クモの繊維か。これを切ってクモの糸を入手すればいいのか?」


 俺はクモの糸を前に、ポルカに問いかける。


「そのとおりだ。簡単な仕事クエストだろう?」


「何かの前振りみたいだな……つうかこの糸、切れそうにないぞ」


 クモの糸の直径は10センチほどはある。

 昆虫が吐き出す糸とは到底思えない。

 むしろ特殊な繊維で編まれた極太のロープみたいだ。


「問題ないよ。そのナイフなら簡単に切れるはずさ。タザキが思うよりも、ずっと高性能だからね」


 ナイフの名前は〈豊穣の月〉。

 スマッシュラビットからよこされたナイフだ。

 かなりハイテクらしいが、外見からはよく分からない。


「まあ、やってみるか」


 俺はナイフを振り下ろした。

 すると――


「へ? 嘘だろ……?」


 手応えがまるでなかった。

 まるで空気を切っているかのようなすかすかの感触。

 しかし。


 ――ズパッ!!!


 極太で頑丈なクモの繊維が、すっぱりと切断されたのだ。


「切れ味やばすぎじゃないか!? 断面が鏡みたいになってるぞ」


 なんだこれ。

 俺が知っているナイフとは次元が二つも三つも違う。


「そのナイフはタザキが知る21世紀の刃物とは全く異なるものだ。切れるし、刃こぼれしても自己修復する。使い方次第で化ける武器だよ」


「そ、そうなのか……」


 〈豊穣の月〉。

 なんて恐ろしい未来ガジェットなんだ……。

 でもポルカは割と平然としている。

 未来の技術としては割と普通なのかもしれない。


「さて、クモが怒って降りてくる前に急ごう」


「了解だ。まだまだやることあるしな」


 と俺が走りだそうとした矢先だった。

 ――ずどおおおおん!

 土埃と砂煙。

 巨大な機械獣モンスターが頭上から落ちてきた。


 同時に拡張現実オーギュメントの機械音声が聞こえてきた。


『ファイバースパイダーに接敵。弱点部分をハイライトします』


「結局こうなんのかよ!」


「どうやら巣作りの途中だったみたいだね。中々に気が立っているようだ。……こうなっては仕方がない。戦おう。僕はここで見ているよ」


「ファッ!? ここで見てる!?」


「そうさ。ここで見ているよ」


 出た。

 クレイジーサイコ猫型ロボットが本性を現わしたな?


「何となく予想していたけど……何でだよ!? 手伝ってくれよ!」


「ファイバースパイダーはタザキでもどうにか勝てる機械獣モンスターだ。拡張現実オーギュメントの使い方に慣れる必要があるし、ちょうど良い機会だろう?」


「た、確かにそんなこと言ったけどさあ……!!」


 ポルカが故障して動かなくなれば、当然俺がソロで生きていかなければならなくなる。

 そんな話をポルカとしていたが、その機会が急に来るなんて聞いてないぞ。


「のわぁああ!」


 ファイバースパイダーの口から、糸が吐き出された。

 ぶん、と拡張現実オーギュメントが自動的に起動して、視界に矢印が表示される。

 俺は反射的に地面に転がった。


「SHHHHHH――!!」


 ファイバースパイダーが息を吐く。

 アポカリプスな世界二日目。

 俺はまたも機械獣モンスターとの遭遇戦に突入した。

 全裸で。


「ま、またかよ――――!!!!!」

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