活動拠点
「 あいたっ!」
ポストアポカリプスな世界の二日目。
俺は下半身の痺れるような痛みで飛び起きた。
最悪の目覚めだ。
「い、いてえ……! またお前かよっ!」
目を開けると、電子パーツを装備したもふもふのウサギが俺の近くを跳ね回っていた。
この世界に来た直後も、こいつにしてやられたのだった。
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*個体名:スパークラビット
機械化した野ウサギの末裔。
背面に装着された太陽光発電ユニットにより駆動。
生体パーツの比率が高く、食用に適している。
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「野ウサギだと……?」
「どうする? 朝食に狩りをしてみるかい?」
とポルカ。
「pipi……pi?」
スパークラビットは自分が獲物として見られていることも知らず、可愛らしい電子音を鳴らしている。
確かに肉の部分は焼いたら旨そうではある。
「いや、何か良心が痛む気がする。やめておこう」
スパークラビットにはもう二度も下半身を攻撃されている。
ぶっちゃけ殺してもバチはあたらないだろうが、もふもふに免じて許してやろう。可愛いって得だよな。
「では朝食はどうする? 木の実でも拾ってくるかい?」
「というかその前に、作戦を練りたい」
「ほう、それは良い考えだ」
「現状を整理しよう。俺は今、何も持っていない。服も寝る場所も、水も食料もない。人としてヤバすぎるレベルだ。全裸だし」
昨日は完全に疲れ果てていたので、ポルカが木の実を拾ってきてくれた。
夜は全裸で草原で寝た。
ポルカが監視モードで夜通し見張っていてくれたのだ。
が、こんな生活続くはずがない。
「当面の方針としては、サバイバルを優先する。自分の力で生活を何とかしたい。ポルカの手はできるだけ借りたくない」
「ほう、それはどうしてだい?」
「元の時代に戻りたいは戻りたいけど、とりあえずは自分の力で生きていける状態にするのが先だ」
考えたくないことだが、ポルカが故障した場合は最悪だ。
そうなったら俺は、この意味不明な世界を一人で生きて行かなければならなくなる。
「ふうむ。それがタザキの選択という訳か。いいだろう。タザキ、君のサバイバル生活を支援しようじゃないか」
「じゃあ最初に俺は何をしたらいい?」
「水と食料、寝床や燃料の確保だ。それから、タザキの場合は服が必要だね」
「了解だ。今日こそ全裸を脱却するぞ」
と、俺が勇ましく一歩前進した時だった。
「お前……まだいたのか」
朝飯にするのを見逃してやったスパークラビットが立ちはだかっていた。
「また俺に電撃を食らわせるつもりか? 次はマジで朝飯にするぞ」
奴の電撃は普通に痛いが、俺には拳がある。
機械化しているとは言え、小さいウサギなんかに負けるはずがないだろう。
「pipi…………pipipipi!!!」
「おっとタザキ、待つんだ。何か様子がおかしいぞ?」
「何でだポルカ。こいつは俺の○んこに用があるみたいだぞ」
と、俺が臨戦態勢に入った時だった。
草むらから、さらに数匹のスパークラビットが現れた。
「な、何だ?」
機械化したもふもふが大量に現れて「ぴぴぴぴ、ちちちち」と何やら俺に言いたげな様子だ。
「pipipi!!」
群の中の一匹が突然、俺の元に飛び出してきた。
「うお危ねっ!」
スパークラビットはなんと、口に刃物を加えていた。
電撃に刃物とか、やる気満々じゃないか。
「そっちがそのつもりなら、もちろん俺も抵抗するぞ。拳でな……!!」
なんて言ってたら。
――からん。
と刃物が俺の足下に落とされた。
「pipi,,piqqpiiii…………」
スパークラビットは何かを言いたげに俺の足下をぐるぐると回る。
「んんん?」
状況がつかめない。
立派なナイフは地面に落ちたまま。
「ふむふむ。ちょっと待つんだタザキ。ふん? ふむふむ……」
「pipi,,pi」
ポルカが間に入り、なにやらウサギと交信をはじめた。
何か仲間外れにされているような感覚だ。
数十秒ほど待っていると、ポルカが空中をくるりと回転した。
「タザキ。このナイフはタザキへのプレゼントのようだ」
「え、俺に? 何でだよ」
「〈
とポルカが解説してくれる。
「マジか……ウサギに恩返しされるとは」
俺はナイフを拾った。
すると視界にメッセージが表示された。
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*アイテム更新
小型ナイフ〈豊穣の月〉を入手
*アイテム説明
旧世界技術が埋め込まれた
遺跡から希に出土する。
切断と掘削に有用であるため、
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「え、何か地味にすごそうなナイフじゃないか。それに高値で売れるのか」
というか、この世界に市場があるのか。
俺がナイフを手にした途端、スパークラビットは草原に消えていった。
どうやら本当にお礼のつもりだったらしい。
「何というか……朝食にしないでよかったわ」
俺はしみじみと〈豊穣の月〉の感触を確かめた。
刃渡りは20センチくらい。グリップ部分は不思議な樹脂の感触。
初めて触るのに、まるで何年も愛用していたかのようにしっくりくる。
刃先はピンと張り詰めたような緊張感がある。
どんなものでもスパスパと切れそうだぞ。
「やったね、タザキ。幸先が良いスタートじゃないか。それじゃあ
「了解だ」
俺はナイフを手に一歩踏み出した。
サバイバル生活の、はじまりだ。
* * *
野宿をした草原エリアから歩くこと数十分くらいが過ぎた時だった。ポルカが尻尾の先で目的地を指した。
「あのあたりだよ。タザキにも見えてきたかな?」
「ああ……あれか」
草原地帯の端っこに、岩肌が露出する小高い丘が見えた。
そして丘のふもとには、人が入れるくらいの洞穴。
近くには小川も流れていて、水の確保にも都合がよさそうだ。
「ふむ。地形データからある程度の推測はしていたが、かなり良い感じだ! ここを僕らの拠点にしよう」
「え、まさかポルカ……」
「すばらしい! 実に居心地が良さそうじゃないか。どうだい? タザキ」
ポルカは自分が機械だからか、ごく普通のテンションで聞いてくる。
「どうって……まさかこの洞穴で暮らすのか……?」
「そうだよ?」
「やっぱりマジか! ワイルドが過ぎる! 一応確認だけど、あくまで仮の拠点だよな?」
「もちろんさ。タザキが望むならもっと良い場所に移っても良い。でも、今は持てるものが少なすぎる。ここで我慢するしかないね」
「そりゃそうだよなあ……まあ分かってはいたけども」
今の俺は全裸だ。
水も食料も寝床もない。
そして移動中にポルカから聞いたが、人間が住んでいる場所はここから数百キロほど離れている。
つまり当面は、徒歩圏内でサバイバルするしかないのだ。
「あれ、割と広いのか?」
俺は洞穴の中をのぞき込んだ。
中は声が響くほどの広さがあり、ひんやりとした空気が漂っている。
「どうだい? 案外悪くはないだろう?」
「ま、まあな。ここなら、草原で全裸で寝るよりはマシだ」
この中にいれば、寝起きに股間を攻撃されることはないだろう。
その意味では一歩前進だ。
「それに色々と物資を調達すれば、居心地もよくなるはずさ。それじゃあ次は、水や食料の確保だ。……おっと、その前にやることがあったね。この拠点に名前をつけておこう」
「名前? 何でだよ」
「こういう大事な場所を、単に『拠点』って言うのも味気ないだろう? それに
「名前か。そうだなあ……」
あんまり捻ったものをつけても、ややこしいだけだろう。
俺は深く考えずに、ぱっと頭に浮かんだ単語を言った。
「ベースキャンプでどうだ?」
「うん、シンプルで分かりやすい。いいんじゃないかな」
ぴこん、と
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*活動拠点を確保しました。
*マップデータにベースキャンプを追加しました。
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「よし、これでまた一つクリアだな」
小さいステップではあるが、少しずつ前進している。
ここに来て雨風をしのぐ場所を見つけた。
「次は、水と食料だ」
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