レベル差ありすぎってレベルじゃねーぞ!

 一万年後の未来世界。

 廃墟の中、俺は〈黒鉄の双竜アイアン・ツイスト〉なる機械の獣に追われていた。

 全裸で。


「じゃあ作戦会議を続けようか」


 というのは猫型ロボットのポルカだ。

 ポルカは空中で機体をくるりと回転させ、俺に告げた。


「まずは戦力の確認をしよう。タザキのステータスを確かめてみよう」


「ステータス? ああ……拡張現実オーギュメントを動かせばいいのか」


 俺は虚空に手をのばし、画面を操作しようとした。


「ちょっと待った。練習もかねて、手を使わずに画面を操作してみようか。慣れればこっちの方が速く正確だからね」


「お、おう……なんか難しそうだな」


「戦闘時はコンマ一秒が惜しいこともある。今のうちに慣れておくにこしたことはない」


「了解だ」


 俺は拡張現実オーギュメントに意識を集中させ、メニュー画面を展開させた。


 少し苦労したが、何とかステータス画面を開けた。

「よし、何とか開けたぞ。で、俺のレベルは……」


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【NAME】タザキ

【体力】52/55

【攻撃力】20

【防御力】15

【技量】40

【俊敏性】38

【集中力】24

【器用さ】8

【機転】50

【工作力】4

【総合Lv】12

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「俺のレベル、低すぎないか?」


「最初はこんなもんさ。君は別に戦うための鍛錬をしてきた訳じゃないだろう?」


「そりゃそうだけど」


 最初から期待してはいなかったが、中々にザコいステータスだ。

 ちょっとがっかりするぞ。


「て言うかこのステータスって、どうやって算出してるんだ?」


「僕がタザキの体をスキャンして、それをデータ化しているのさ」


「なるほど……俺のリアルのデータって訳か。でも初期レベル12は低いなあ」


 まあこれが俺の現実なのだろう。


 未来世界に召還されたからと言って、チート級のパラメーターになるなんてことは、ないのだ。


「まてよ? それじゃあ何のためのステータスなんだ? ゲームみたいに経験値が貯まってパラメーターの振り分けができるなら分かるが、別に意味なくないか?」


「確かにステータスの数値自体は、あまり意味がないかもしれない。自分の実力はタザキが一番分かっているからね。でも、敵との戦力差を比べるのには便利だろう? ……いよっと」


 とポルカが拡張現実オーギュメントに情報を追加してくる。


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【NAME】〈黒鉄の双竜アイアン・ツイスト

【体力】1070

【攻撃力】1920

【防御力】2000

【俊敏性】400

【総合Lv】1020

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 俺の視界に、異常ともいえるステータスが表示された。

 何だこの絶望的なレベル差は。

 見ただけで戦う気が失せるぞ。


「け、ケタが違いすぎる! 俺、死ぬじゃん!?」


「諦めるのはまだ早い。いいかいタザキ。これはゲームじゃない。現実だ。そしてタザキ。君は人間だ。人間は、道具を使うことで自らの能力を強化してきた」


「道具……? でも俺、全裸だぞ。完全に丸腰なんだが。これでレベル差1000とか、どうやってひっくり返すんだ?」


「僕に任せてくれ。僕は、タザキが思う以上に役に立つ〝道具〟さ」


「すげー自信だな?」


「ははは、それほどでもないよ。僕のシミュレーションでは、勝てる確率は――――」


 ――ドォオオオオン!!!


 ポルカが言い終えないうちに、爆音が響いた。

 そして建物の壁が砕け飛んだ。


 ギョロリ!

 と壁の隙間から、〈黒鉄の双竜アイアン・ツイスト〉が俺を睨んでいた。


 恐ろしくでかい咆哮が、全身の肌を震わせた。


「GYAAAA――――――――!!!!!!!」


「や、やばいぞ……!」


「やれやれ、ゆっくり説明している時間はなさそうだね」


 〈黒鉄の双竜アイアン・ツイスト〉が大量の空気を吸い込んだ。何かが来る予感だ。


「RGUUUU――――sss……!!」


「タザキ、拡張現実オーギュメントの指示に従うんだ!」


 ポルカが叫んだ瞬間、視界に下向きの矢印が映し出された。


 直感的に俺は意味を理解した。


 ――地面に転がれ。


 ほとんど反射的に転がった。


 全裸なので当然、床とち○こがこすれて痛い。

 だがそんなことを気にしている場合ではなかった。


 〈黒鉄の双竜アイアン・ツイスト〉が吐き出した高熱の圧縮空気ガスが、頭の上をかすめていったのだ。頭皮がやばい。これは将来ハゲるやつだ。


「うぉおおわっ。あぶねえええ!! あっつ!」


 ポルカはひょうひょうとした調子で話を続ける。


「いい調子じゃないか。これでやり方は分かったね。拡張現実オーギュメントが君に行動の指示を出す。タザキはそのとおりに動くだけでいい。それで攻撃は回避できるはずさ」


「わ、分かったけど、分かりたくねえ……!」


 続けざまに「→」の矢印。

 飛んだ。


 次の瞬間、〈黒鉄の双竜アイアン・ツイスト〉が首を伸ばして噛みついてきた。


 ガギン! と鋭い牙が空を切る。

 そのまま突っ立っていたら食われてたぞ。


「やべえ……やべえよ……!」


「タザキ、落ち着くんだ。冷静になればなるほど、君の生存確率は高まる」


「そ、そうなのかも知れんけど……! すげー怖い!」


「怖くて当然。人間だもの。さあ、やってみようか。ダンスの時間だ」


「気障なセリフすぎてうぜえ……!!」


「それじゃあ僕はここで。ちょっと別行動をしてくる」


「はあ? 何でだよ!?」


 ポルカは俺の疑問をよそに、淡々とした口調で言ってのけた。


「僕は僕でやることがあるからね」


「ちょ、おま……!」


 ポルカはふわりと宙に舞い上がり、がれきの隙間からするっと外に抜け出していった。

 そんな簡単に飛べるなんて、ずるくないか?


「ぽ、ポルカ!? 俺もつれてってくれよ……!!」


「すまないタザキ。少しだけ持ちこたえてくれ」


   *   *   *


「し、死ぬぅうう……!!」


 およそ五分後。

 俺はまだ生きていた。


 拡張現実オーギュメントが示すルートを走りぬけ、ビルを抜け出した。


 どっかんどっかんと建物はぶっ壊れ、あたりは土煙が立ちこめていた。


 まるでアクションゲームの中にいるみたいな気分だ。

 ゲームと違うのは、死んだら終わりってことだ。


 クレイジーサイコ猫型ロボットことポルカは姿を消したが、どうにかこうにか致命傷は避けていた。


 だが問題は体力だ。

 ずっと走りっぱなしで、底がつきそうだ。 


「はあ、はあ……」


 目の前に左上が表示される。

 ジャンプしろ、という意味だ。


「そぉい! ……へ?」


 俺がジャンプした途端、足の裏に硬い感触が。


「うわわわ!」


 なんと俺は黒鉄の双竜アイアン・ツイストの頭上に立っていたのだ。


「GSHUUU――――!!!」


 怒気混じりの呼気とともに、黒鉄の双竜アイアン・ツイストが俺を振り落とそうと頭を振る。


「ひぇええ!」


 俺は振り落とされまいと、頭にしがみついた。

 しかし、その時だった。

 またも矢印が現われた。

 次も左上だった。


 つまり拡張現実オーギュメントは俺にこう告げている。

 このタイミングでジャンプをしろと。


「ま、マジか……でも、やるしかねえ!」


 やはり疑ってる余裕はなかった。

 黒鉄の双竜アイアン・ツイストが首を振る。

 反動が全身に加わる。

 タイミングを合わせ、二度目のジャンプ。


「のぅりゃああああああ!!!!!!」


 俺はさながら人間大砲のごとく宙に舞った。全裸で。

 今度こそ死んだ。

 確実に死んだ。

 もうだめだ。


 俺の体は空高く放り投げられ、大きな放物線を描き――

 びだん!

 と廃墟となったビルの屋上に着地した。


「いてぇえええ!」


 地面をのたうち回っていると、ポルカの声が聞こえた。


「ホールインワン! 計算どおりだ。骨折も裂傷もなさそうだね」


「お、俺の体でゴルフをするな! 死ぬかと思ったわ!」


「ははは、悪いね。でも怪我はないだろう? 許してくれよ」


 悔しいがポルカの言うとおりだった。


 あれだけ激しいアクションをしたにも関わらず、俺は無傷だった。ち○この皮が少しすりむけただけだった。いや、十分痛いけど。


 ともかく、ポルカの情報支援は恐ろしく精度が高い。


 半信半疑でここまで来たが、ポルカの能力は信じざるを得ないだろう。


 少し冷静になった俺は、ポルカに問いかけた。


「……て言うか、どこに行ってたんだ?」


「ちょっと遺跡を探索していたのさ。タザキが使える装備を回収するためにね」 


「え、マジで?」


「次は、タザキが反撃をする番だ。この戦闘用強化外骨格アーマード・コンバットフレームでね」

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