第52話 死者の国


「宇多方」について語ろう。


 宇多方は別界とつながっている。まことしやかに、そう言われている。では、別界とは何なのか? 異空間、異次元である、という意見が支配的である。


 その一方で、「死者の国」であると唱える少数派もいる。なぜなら、「戻り人」の中に、亡くなった家族と会った者がいるからだ。その主張が事実なら、僕たちのいる現世は地獄と地続じつづきということになる。


 あまりにも、気味の悪い考え方だ。もしも死者が増えすぎて、行き場を失ってしまい、波打って現世に舞い戻ってくれば、世界は死者であふれかえってしまうだろう。


 繰り返しになるが、別界に迷い込んだ時に亡くなった肉親と出会った、という事例は決して少なくないのだ。もっとも、再会した肉親は生前と同じであったわけではない。生気がなくて、まともな会話は成立しなかったらしい。


 まるでゾンビのようだった、という不気味な意見もある。外見は似ていたとしても、中身は別物だったのだろう。では、中にいた別物とは何なのか? もちろん、別界の魔物しか考えられないだろう。


 よって、別界とは「死者の国」ではない。「魔物が支配する空間」である。少なくとも僕は、そう信じている。


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